僕の話 第18話
家に向かって自転車を走らせる。道中、赤信号に捕まり、僕は停車した。溜息を吐いて先ほどの出来事を振り返る。別にもう少し会話を続けても罰は当たらなかっただろうに。犯していない罪を恐れるほど阿保なことはないだろう。
そんなことを考えていると僕の隣に自転車がピタリと止まった。普通後ろに並んで待つだろう、非常識な奴だと内心舌打ちをしてちらりと目を向ける。
そこには先ほど駐輪場で別れた美園さんの姿があった。凛とした姿勢で自転車に跨る彼女に
もしかして僕のことを追いかけて来たのだろうか。しかし、すぐに気持ちを切り替えた。ポジティブな勘違いはやめよう。中学生の時の反省を生かすべきだ。中学生の頃に付き合っていた彼女は未だに付き合っていたことにすら気付いていなかい。駅までの最短ルートなのだから出会うのは当たり前だ。
「さっきは本当にありがとうございました」僕の肩をつつき、彼女が言う。
「気にしないで下さい。自転車を倒すなんてあそこの駐輪場ではよくあることですから」
そもそも自転車通学の生徒数に対して駐輪スペースが狭すぎることが問題なのだ。彼女が悪いわけでも、ましてや僕が悪いわけでもない。
「それでもちゃんとお礼は言っておかないと」
きちんとした子だなと思った。沙仲だったら僕の肩を叩きながらごめんごめんと連呼していただけだろう。そのフランクさが彼女の美点であり欠点でもある。
そこで会話が途絶えた。しかし、話すべき内容がそれしかないのだから、それも仕方のないことだ。もうすぐ信号が切り替わる。気まずさを避けるために僕か彼女のどちらかが少し遠回りになる道に
本当にそれでいいのだろうか。ふと自分に問いかける。こうやってちょっとしたチャンスを逃すから何にも変わらないのではないか。後悔は後でするものであって今するものではない、海尊はいつも僕の問いに答えてくれる。
信号が赤から青に切り替わる。自転車を走らせた彼女を追って僕は口を開く。
「沙仲の友達ですよね」僕が言う。
彼女は少し驚いた顔をしてから笑顔になった。
「部活が同じなんです。以前ちらっとお会いしましたよね」
「ええ、昇降口の辺りでちらっと」
会話がぎこちない。しかし、初対面なんてこんなものだろう。馴れ馴れしい方が不自然である。隣を走る彼女に言う。
「いつも沙仲がお世話になっています」
「こちらこそ、お世話になっています」
「どうですか、何か迷惑をかけていませんか」
「いえいえ、そんな私の方が迷惑をかけているくらいで、彼女の明るい性格にはいつも非常に助けられています」
「そうですか、これからも仲良くしてやって下さい」
淡々とした会話が続き、僕は彼女に軽く頭を下げた。そんな僕を見て、彼女がクスクスと笑う。何か可笑しかっただろうか。その笑いで僕は途端に不安になった。
「なんか先生と保護者の二者面談みたいですね」彼女は言う。
言われて気付く不自然さ。気恥ずかしくなって僕はぎこちなく笑った。
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