僕の話 第6話
その日も一日、雄索との生産性のない会話と授業を繰り返し、終わった。華の高校生がそれでいいのかと問われるとよくないと思うが、それじゃ駄目だろと問われるとそうでもないと思う。結局のところ僕はこの生活に満足しているのだろう。
家に帰ると姉が先に帰宅していた。高校指定のブレザーから私服に着替えた姉が三人掛けのソファに座りヨーグルトを食べている。
「おかえり」僕に気付いた姉が言う。
「ただいま」
「発馬もヨーグルト食べる?」
僕が頷くと姉は冷蔵庫へ向かい、カップに入ったヨーグルトとスプーンを持ってきた。
「ほら、まあここに座って食べなさい」
それから自分が座ったソファの横をバンバンと叩く。
「どう、高校は楽しい?」
突然母親のようなことを聞く姉を
「それなりに」
姉はそっかそっかと何度も頷く。その笑みは、弟の高校生活が順調で良かったと安心して出たものでは決してなく、もっと下卑たもののように思えた。
「今朝沙仲ちゃんが発馬のお弁当持って行ったでしょ。ちゃんと受け取った」
そらきたぞ。
「そりゃあ、もちろん」
姉の口角が先ほどより上がっているのを見逃さない。
「あんな可愛い子が届けてくれたんだからそれはそうよね」
「知り合いなら誰が届けてくれても受け取るよ。そこに容姿は関係ない」
あんたねえ、となぜか溜息をつく。何か間違ったことを言っただろうか。
「沙仲ちゃん可愛いんだから、ちゃんと捕まえとかないと他の誰かに取られちゃうわよ」
「姉貴みたいな尻軽と一緒にしないでよ」
「あら随分沙仲ちゃんを信頼してるのね。あと私は尻重よ」
「それは本当の尻の話?」
姉が僕の脇腹を突く。うひゃあと声を上げて危うくヨーグルトを床に落としそうになった。
「あんたそんなんだと
「別にモテようとも思ってないし」これは強がりだ。
「あんたまさか、そっちの趣味が」
姉は、はっとしたように口を手で覆う。気付いてあげられなくてごめんねと言わんばかりだ。
「違うし、もうこのやり取りは学校でやったからいいよ」
「私としたことが、誰かの
「自由競争主義の闇がこんな所にも表れたか」
「やられる前にやる、この世界の鉄則よ」
女子高生でありながら戦国武将のようなことを言う姉に若干身を引く。
「まさか高校でもそんなことばっかり言ってるんじゃないよね」
その奇天烈な発言のせいで姉が高校で孤立しているのではないかと心配になった。
「まさか。私が外でどれだけお嬢様していると思ってるの。深窓の令嬢の名を欲しいままにしている私に死角はないわ」
姉とは対極の位置にある言葉に思わず吹き出してしまう。家で姉を見ている立場から言えば、とても深窓の令嬢なんて可愛い言葉では片付けられない
「まあお嬢様は冗談だけど、女の子はみんな内と外をそれくらい使い分けているのよ。発馬もいつか知る時が来るから覚えておくといいわ」
外での反動がこの豪胆な性格を作り上げているのだろうか。それを言ってしまうとまたやっかいなことになりそうでぐっと
「姉貴は暇なの?」
「発馬に構っているということはつまり」
「暇なんだな」
「よくできました」
褒めてあげると頭に伸びた手をさっと避ける。
「そう言えば母さんがいないけど、どこか行ってるの?」
いつもならこの辺りでとんちんかんな意見を出す母がいないことに気付く。
「父さんの所に行くから、一週間くらい家を空けるって夕べ言ってたじゃない。聞いてなかったの」
言われてみればと昨晩の会話を思い出す。丁度放映されていた未確認生物特番に気を取られちゃんと聞いていなかった。結末を言ってしまうと、UFOもビックフットもネッシーもそれっぽい写真があるだけで結局見つからなかった。しかし、本当に実在するのならば一目見てみたいという少年の心を逆手に取った良い番組だ。
今日の夜分のご飯はあるけど、明日からはコンビニ飯ね、姉が言い、そうだねと僕も同意した。
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