お皿を割ってしまったら
つなくっく
第1話
よし、今度こそ。
今度こそ、成功させてみせる。
私は銀のトレーを両手で持ち、廊下を歩いていた。トレーにはキャラウェイというハーブのケーキが載せられていて、甘くさわやかな香りが私の鼻をくすぐる。
午後のお茶と一緒に出されるケーキだ。
前を歩いているメイド長がティーセットを運んでいる。私の仕事は、このケーキを無事に朝食室に運ぶことだ。ゴンタローを含め、朝食室には旦那様たちが待っている。絶対に落としちゃいけない。落としちゃいけない。落としちゃいけないんだ……。
強く自分に言い聞かせながら、廊下を進む。なんだかトレーや皿がカタカタ言ってるし、膝も曲がっていない気もするけど……いや、そんなことよりもこのケーキだ。これをちゃんと運ばなきゃ。もう失敗なんてしたくない。
ようし、朝食室が近づいてきた。もう少し。もう少しなんだから。もう失敗は繰り返さない。私はいつも通りの仕事をするんだ!
……そのとき一瞬だけ安心してしまったのかもしれない。安心したから、こうなってしまったのかな。
踏み出した右足が床についたと同時に、床を踏みしめた衝撃のためか、膝がいきなり曲がった。
膝が曲がっていくスピードは速く、次の瞬間には膝が完全に折れ曲がっている。私はバランスを崩して床に崩れ落ちてしまった。
全身から伝わってくる、冷たくて硬い床の感触。
あ、転んだんだ、ということが、妙な冷静さとともに感じられた。
そして同時に、ガシャーン! という甲高い音もする。私が転ぶとそんな音がするのかな? いやいや、そんなわけはない。じゃあ、なんの音なんだろう……。
そんなことを思っていると、目の前に白い破片が散らばっているのが見える。
一瞬白い破片の正体が判らず、私は破片の手前に転がっている物に目を移した。なんだかやたらとハーブの香りがする。
白く丸い布の上に、薄い茶色の物体が転がっていた。
あ、ケーキだ。
そう思った。薄い茶色の物体は、私がさっきまで運んでいたハーブケーキ。ふんわりとした見た目で解るし、なにより匂いがそうだ。そしてケーキの下にある布は……ああ、私のキャップか。転んだ拍子に脱げたのかな。
あ、じゃあ、この白い破片は……お皿?
白い破片の正体を知るのと、前を歩いていたメイド長がこちらを振り返って大きな声を出すのと、どちらが早かっただろう。
「なああああにやってんのおおお! メリッサああああ!」
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