第一章 楽士登用試験
強い風が花弁を巻き上げていった。白い花弁が朱塗りの玻璃城に映える。
海からの風は、今日もこの国を駆け抜けていく。
ここは瑠玻羅王国。大陸の南東に浮かぶ小さな島国だ。大小いくつもの島々から成る。
温暖な気候と近海で採れる宝石で栄えてきた。
玻璃城はその首都にそびえる王宮だ。赤壁の城は瑠玻羅の青空と見事な色彩を放ち、近隣諸国に楽園の城として知られている。
その玻璃城の前には、多くの人々が集まっていた。そのほとんどが、なんらかの楽器を抱えている。今日は宮廷楽士の登用試験があるのだ。
ふいに集団がざわつく。人々の視線は一様に城へと向けられていた。
王女が現れたのだ。
結い上げられた髪は、まるで黒真珠のよう。赤地の着物には山吹色や浅葱色の糸で繊細な刺繍が施されており、広い袖口からは色鮮やかな打掛が覗いている。
「
群集の中から囁きが聞こえる。
瑠玻羅の国王には、世継ぎが一人。
その美しさに、人々の口からため息が漏れる。
その中にあって、一人息を詰めている男がいた。
長い髪の男だった。長い髪を低い位置でひとつに結い、その背には
気候のせいか明るい装飾を好む瑠玻羅の民だが、その男の身形はそれに輪を掛けて派手であった。
若草色の着物には生成りや山吹色の糸で刺繍が施されており、藍色の羽織りは腰に巻かれている。帯に巻かれた組紐の黒と黄色の色合いが目を引く。
その派手な着物は、男の容貌を引き立てている。顔がひどく整っているのだ。
志願者は男性が多いが、女性の志願者少なからずいる。彼女らが、ちらちらと男に視線を送っているほどだ。
よく見ると、男の左手には黒い革の手袋がはめられていた。中三本だけが長いのが特徴的な手袋だ。
三線初心者であれば、手を痛めないよう手袋をはめることもある。
だがここは宮廷楽士を選ぶ場だ。そんな初心者丸出しのものがいていい場所ではない。
事実、男の近くにいる者は、その手袋を訝しげに見ていた。それでも男は意に介さない。
男が口の端をふっと上げて笑った。
「今生でも、試練を課すか……」
ざわめきの中で呟かれた言葉は、誰の耳にも届かない。静かに消えていくだけだ。
男――
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