君は綺麗

カゲトモ

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「あれ、ユイちゃんじゃん」

 オープン前に看板を拭いていると、通りかかった女の子に気が付いて声を掛ける。

「わぁ~! スカイさんだぁ。久しぶりです~」

 相変わらずアホっぽい、もとい語尾伸ばし系のおっとりとした話し方をするユイちゃんは、もともと近所のキャバクラで働いていた女の子だ。

 彼女が夜の仕事を辞めてから半年ほど経っただろうか。辞めてから会うのは初めてだ。

「元気でした~?」

「変わらずね。ユイちゃんは?」

「あたしもぉ元気にしてましたよ~」

 変わらずコロコロと笑うユイちゃんの細い指にはシルバーのリングが光っていた。彼女は結婚を機に店を辞めたのだ。

「旦那さんとはどう?」

「仲良くやってますよぉ」

「新婚さんだもんな。今ユイちゃんは何してんの?」

「買い物のついでにママに会いに来たんです~」

 いや、今日何しに来たのじゃなくて、今は仕事何してるのってことなんだけど。

「今は専業主婦してますぅ」

「専業主婦か」

「はい~」

 ニコニコ笑うユイちゃんの旦那さんは、店のママが言うには仕事のできる金持ち、らしい。エリート商社マンだとかなんとか。駅で一目ぼれしたユイちゃんを追って店まで来て、通いに通ってその心を射止めたそう。真面目で優しい人なんだと、寂しそうにママが言っていた。

「ゆぅくんが仕事はしなくていいって言うからぁ」

 ゆぅくんとは旦那さんの呼び名だ。

「へぇ」

 こんなに可愛い子を野放しには出来ないと、旦那は言うのか。

 なんて、余裕のある奴は違うな、何て思っているとユイちゃんがおもむろにお腹に手を当てて言った。

「子供の為にも今はゆっくりしときなさいっていうんですぅ」

「子供!? ユイちゃん子供出来たの!?」

「そうなんですぅ。まだ三ヶ月なんですけどぉ」

 愛しそうに撫でるユイちゃんを見て、ホッと安堵の息を吐いた。

 子供が出来てよかった。

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