電光石火



「……ここ、どこ……?」

 周りを見渡し呟いても、その問いに答えてくれる人はいない。

「あ~あ。完璧に迷っちゃったなぁ……」

 実家や友達にメールしても困るだろうし……。

「やっぱり、引っ越した初日に当てもなく散歩するなんて無謀だったのかな」

 散策と散歩。同じような意味だけど、やっぱり違う。

 それにしても……

「疲れた……」

 さっきからずっと彷徨っていたもんなぁ。心なしか喉も渇いているような気がするし。

 どこか休憩出来そうな場所は……あ。

「公園だ」

 私が幼い頃に遊んでいた公園に比べると大分小さいけれど、どこか懐かしさを感じて自然に足が向いた。


 公園内に入ると、時間が少し遅いせいか子ども達の姿は見当たらなくひっそりとしていた。

 

 誰もいない、静かな私だけの空間。


 そんな風に少し優越感に浸りながらベンチに座り、夕焼けに染まる空を見上げる。

 昨日まで暑かったと思っていたけれど、いつの間にか秋になっていたんだな……。

「キレイな空」

 呟きながらふと視線を公園内に移すと、さっきは気付かなかったけれどジャングルジムの上に人影を見つけた。

 あんな所に人?

 子ども……じゃないよね? 何しているんだろう?

 ゆっくりと近付き、その人を見上げる。

 その人、彼は、ケータイを夕焼け空に向けていて、私が後ろから近付いてきたことには全く気付いていないみたいだ。

 空を写メっているのか。話し掛けたらマズイよね。

 でも一体どんな人なんだろうという好奇心から、そっと横へ廻ってみる。


「!!」


 息が、止まった。


 彼の横顔は夕陽に映えて……男の人に対してこういう表現が正しいのかは判らないけれどキレイで……私はただその姿に見惚れてしまった。

 まるで一つの絵画を観ているみたいなその光景に、気付くと私はケータイを取り出し彼に向け……



 チャラーン♪



 写真を撮っていた。

 その音に、彼が私を見下ろす。

 うわ……真正面もかっこいい……って、そうじゃなくてッ!

「あ、あの、すみません!」

 それだけ言って、その場から走り去る。



「……変に、思われたよね?」

 私が彼の立場だったら、見ず知らずの人間が自分の写真を撮っていたら気持ち悪くて嫌だ。それにこれって……

「盗撮。犯罪行為だよね……」

 常識的に考えて、この写真は今すぐ消去するべきだと解っている。

 でも、なかなか削除ボタンが押せなくて……私は画面に映る彼の横顔を見ていた。





 あの一瞬で、私は彼に恋をした―――









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MEMORYS 玻璃 @isayohi

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