Secret crime
「………何なわけ?」
僕は目の前の状況にそう呟くと、大きく溜め息を吐いた。
事の起こりは、今日の昼休み。
友達と昼食のチーズサンドを食べつつ談笑――とはいっても、友達が一方的に話していて僕は聴いていただけだけど――をしていた時、隣のクラスの幼馴染が半泣きの状態で僕の所にやってきた。
「……どうしよう~」
あまりに動揺しているせいか、彼女の言葉は全く的を射ていない。
「……あのさ。いきなり来てそれじゃ、何の事かさっぱりなんだけど」
「うぅ、どうしよう~」
……人の話、聴いてないし……。
「何? また誰かに告白でもされたわけ?」
「違う、そんなんじゃないよ。……あぁ、どうしよう」
全く理解不可能。
「一体何? どうしようだけじゃ、本当解んないんだけど」
後ろから感じる友達の好奇な視線やいつも以上に様子が変な彼女に苛立ちながら左手で首筋を押さえる。
「……数学、赤点取っちゃった。来週、追試だって」
「は?」
予想外の言葉に、僕にしては珍しく間抜けな声が出る。たぶん表情も似たようなものだろうけど、確認する術はないし目の前の彼女には気付く余裕がない。
「一生のお願い! 追試までの一週間、私に数学教えて!」
……一体何度目の一生のお願いだ? というか、いくつ一生のお願いがあるんだ?
思わずそんなツッコミが浮かんだけれど、あまりに必死な表情に「仕方ないな……」と溜め息交じりに頷いた。
どうやら僕は、自分で思っている以上に彼女に甘いらしい。
そして夕食後。
いつまで待っても来ない彼女の様子を見に彼女の家へ行くと……
彼女は自分の部屋のベッドで気持ち良さそうに眠っていた。
「……何なわけ?」
人に頼んでおきながら寝てるなんてどういうつもり?
お前が帰った後、友達に色々訊かれたんだけど?
本当に、うんざりする。
僕たちが付き合っているという噂も、それをからかってくる友達も、全く気にせず昔のまま接してくる彼女も。
何より、その噂と彼女の態度に喜んでいる自分も。
「……ったく、そんな無防備でいるとどうなっても知らないよ?」
ベッドの端に座り
スプリングがギシッと鳴るけれど、起きる様子はない。
「……最終警告だよ」
そう呟いて、ゆっくりと彼女に顔を近付けた。
他の誰にも、僕にもそんな姿は見せないで。
誰にも言えない、秘密が出来た日――
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