秘密の放課後



「好きな人が、出来たんだ」

 今にも消え入りそうな声で言った親友の言葉は、文字通りの爆弾発言だった。

「本当!? 誰? あたしの知ってる人?」

 今まで誰かを好きになったことのない親友。そんな彼女の告白にテンションが高くなり、少し大声になってしまう。

「うん……よく知ってる人。この、クラスの人、だよ」

「うちのクラス!?」

 その発言に、頭の中で次々と男子の顔が浮かんでいく。

 誰だろう? あの人かな? それとも、あいつ? まさか、あれってことはないだろうな。

「最初の印象はね、あんまり良くなかったんだ。見た目、すごく軽そうだったから。どうして仲良く話しているんだろうって疑問に思いながら見ていたんだ。でも、前にあなたを待っている時に話し相手になってくれて……それがすごく楽しくて……気になり始めたの」

 ん? 何か今、引っ掛かったような……?

「自覚したのは、つい最近。このクラスに来て一緒に話しているとドキドキして、話し掛けられると嬉しくなって……」

「ちょっと待って。それってもしかして……」

 彼女の言葉を制止して一人のクラスメイトの名前を挙げると、恥ずかしそうにしながら頷かれる。


 まさか、の奴でした。


「何で、よりにもよって? そりゃ、かっこいい部類に入るだろうし、イイ奴だけどさ。具体的にどこがいいの?」

 好感が持てるのは解る。けどやっぱり大切な親友の想い人としては微妙だ。複雑だ。まぁ、相手が誰であろうとそう感じるのかもしれないけど。

「解らないと思うよ。というよりも、私が好きになった所を教えてライバルになっちゃったら嫌だから教えない。それにそうなったら勝ち目ない……」

 いやいや、百人中百人が、あんたを選びますから。それにね。

「あたしに好きな人いるの、知ってるくせに」

 あたしには、他に好きな人がいる。あたしと、あいつの共通の友達だ。




 なんて会話をしていたのが二週間前。今日あたしとあいつは日直で、教室で日誌を書いていた。

 二人きりの教室。訊くのは今しかない。

「そういえばさ、あんたって好きなコいないの?」

 風船ガムがパンッと弾ける音がする。

「は? 何だよ、いきなり。もしかして、俺の魅力に気………」

「そんなわけないから。ただそういうの聞いたことないと思って」

 戯言はスルーする。

「で、いるの? いないの?」

「……いる、けど……」

 いるんだ。

 あのコのことを考えると胸が痛んだけど、気を取り直し誰かを問う。なかなか言おうとしない奴に半ギレしつつしつこく訊いていると、重い口をやっと開いた。


 出てきたのは、あのコの名前だ。


 それだけで充分な気持ちになってあたしは勢いよく立ち上がった。

「絶対、告白しろよ。それで、あのコのこと幸せにしなかったら許さないから!」

 いや寧ろ殺すだろうって剣幕で叫び、教室を飛び出す。途中だった日誌とか、あのコの気持ちをバラしちゃったこととかは忘却の彼方で、必死に屋上を目指した。

 きっと彼は、いつものようにそこにいるだろうから。



「というわけで、失恋しちゃいました」

 一部始終を話し、敬礼っぽい手つきをしてそう笑顔で言うと、彼は笑いながら「良かったな」と呟く。

 きっと数日のうちに二人は付き合いだすだろう。そしてそれを、あたしは笑顔で祝福するんだ。





 これは、あたしに隣にいる彼に想いを伝える勇気をくれた、大切な話、だ。







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