雨と雲と (【雨の日に】彼ver.)
失敗したな。
降り出した雨空を見ながら、僕はそう思った。
今日は天気予報は晴れと言っていたから、折り畳み傘を置いてきてしまった。
仕方ない、走って帰ろう。そう思いながら昇降口を出ようとしたとき、彼女を見つけた。
彼女は空に恨みがましい視線を向けている。
そんな様子が可愛く感じて、僕はそっと笑みを浮かべる。
隣のクラスに在籍している彼女に、僕はずっと片想いをしている。
彼女は知らないだろうな。友達と話すためじゃなく彼女を一目見るために、隣のクラスに行っていることを。
あの様子じゃ、彼女も傘がないんだろう。もしかして、僕と同じように走って帰るつもりなんだろうか。
秋の雨は冷たい。濡れて風邪でもひいたら……。
本当に、失敗した。傘さえあったら、貸すことが出来るのに。
何か……あ、そうだ。
僕は制服を脱ぎ、今にも雨の中に走り出そうとしている彼女の頭に被せる。
突然のことに驚いている彼女と目が合い、心臓が跳ね上がった。
「本当は傘があったら良かったんだけど……これでもないよりはマシかな」
これだけ言うのがやっとだ。
「じゃあ」
雨の中に飛び出す。
「ちょッ!!」
後ろから戸惑いを含んだ声が聞こえ、振り向いて叫んだ。
「風邪ひかないようにね」
そうしてまた走り出す。
雨で体は冷たくなっていくけれど、それ以上に心が温かくて寒さなんて気にならない。
これが、親しくなるきっかけになってくれればいい。そう思いつつ、家に向かって走り続けた。
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