第8話 人類最初の笑い

「出て行け!」


神に怒鳴られエデンの園を、追い出さられ出て行くアダムとイブ。


神との約束を破り禁断の果実を食べてしまった二人は、神の怒りを買う代わりに知恵を手にした。果実を食べて彼らが最初に受けた感情は恥じらいだったが、神からエデンの園を追い出された今後悔と不安が二人を襲う。

これからどのように生きて行けば良いのだろうか、寝る場所、食事…

数え上げたらきりが無い。不安や悩みに最も有効な対処法は、悩みを共有することだが、感情を初めて持った二人はこの事に気付かない。二人は無言のまま下界を歩く。


しばらく歩くと二人は空腹を覚える。

今まではお腹が空いたらそこらへんになっている実をもいだり、神に仕える天使達が食事を用意してくれたが、下界ではそういはいかない。自分で探し自分で空腹を処理しなければならない。二人は食べれそうな木の実や果物を探してみるが、そう都合よく見つからない。しばらく探しているとアダムがキノコの群れを探し当てた。


「おい、これ食えそうじゃねぇか!?うれしぃいいい」

歓喜の声をあげてイブに報告する。

これは人類が最初に感じた嬉しさと安堵という感情である。

イブはキノコに対して特別な知識を持たないが、動物の本能としてこのキノコは危ないと判断したのだろう。

キノコを見つけ満面の笑みを浮かべるアダムに対し食べるのはよそう、と提案する。

アダムは先ほどキノコを見つけ歓喜した手前すぐに、うんそうだね。と了承しキノコを諦めるのはどうも体裁が悪い。


「じゃー俺だけ食べるわ。お前は食わなかったら良い。その代わり少しも分けてあげないからな」

といいキノコつんで口に運ぶ

「う、うめぇええええええ!

これはうめぇ!さっき食った禁断の果実よりうめぇ!少しほろ苦いがこのほろ苦さがクセになってドンドン食えるわ!!うますぎるぅうう」

アダムは自分がキノコを絶賛する事でイブもキノコを欲しがると予想したのだが、予想に反しイブは懐疑の目で

アダムを見る。

二人は気まずい空気のまま

再び歩き始める。


すると草むらから

獰猛なトラが二人の前に現れる。

牙を出し低い唸り声をあげながら、

二人との距離をゆっくり縮めるトラ。

恐怖・絶望の感情が二人を襲う。

武器になりそうなものはない。

アダムとイブはここで殺されるのだと、半分諦めながらトラが一歩進めるたびに一歩後ろへ下がる。


アダムは一歩づつ後ろへ下がりながら

不安や絶望や恐怖、何も考えなくてよかったエデンの園を思い出していた。

(そもそもイブが蛇にそそのかされ禁断の果実を食べなければ追い出されることは無かったし、そもそもその後俺に勧めなくてもよかったのではないか)


アダムの感情は一歩後ろへ下がるたびにトラへの恐怖からイブ対しての憎しみへと移っていった。

「全てお前のせいだ、お前が蛇にそそのかされなければ今もエデンの園で平和に安全に過ごしていたのに…はぁ」

イブも一方的にアダムから愚痴を言われては面白くない

「じゃー私が禁断の果実を勧めた時にあんだけ美味しそうに果実を頬張ったのはだれ?」


二人の口論はヒートアップする

トラは急に口論を始めた人間に対してどうして良いかわからず当惑し歩みを止めた。


「神からあんだけ言われてたのに蛇ごときにそそのかれやがって…っあっっーーーー」


急に腹を抱えて倒れこむアダム。

どうやら先ほど食べたキノコで腹を壊したらしい。

ギュゥウルルルル。

今までは聞いた事の無いような音がアダムのお腹から鳴り響く。


「だからさっき言ったじゃない。

私は止めましたけど。」


反論する気力がないほど痛いのかお腹をさすりながら苦しい顔をするアダム。お腹からもう一度ギュゥウルルルル、と大きな音が聞こえた瞬間アダムは勢いよく脱糞をした。禁断の果実を食べた際に恥じらいの気持ちから局部を、イチジクの葉で隠したというが

脱糞を披露するのはそれ以上に恥ずかしいだろう。辺りにはアダムのリズミカルな脱糞音とスパイシーな匂いが広がる。

トラはこのスパイシーな匂いに食欲を削がれたのか反転するや否や逃げていった。


イブの脳内では先ほどあんだけキノコを絶賛し、自慢気に食べていたアダムがフラッシュバックされどう形容して良いのか分からない感情が広がる。

アダムはようやく正気を取り戻したのだろう。残りの脱糞はせめてイブに見られない草むらでしようと思い、顔を真っ赤にしながら四つん這いで草むらに向かう。草むらから鳴り響くリズミカルな音をイブは無表情で聞く。


ようやく音がなり終わると、なんだかやり切ったというかスッキリした顔でアダムが草むらから出てくる。先ほどの醜態を自分でも分かっているがそれを顔の表情から必死で隠している。

何事もなかったように努めながら

「なんとか助かったなー

じゃーそろそろ行くか」


とアダムが先頭切って歩み始めた瞬間、先ほどの自分の排泄物に足を滑らせ壮大にこけるアダム。


それを見たイブは、キノコを美味そうに食べるアダム、口論中に急に脱糞をするアダム、四つん這いになりながら草むらに逃げ込むアダム、そして澄まし顔をして何事もなかったようにしながら自分の排泄物で転がるアダム。

これら全ての出来事が走馬灯のように脳内で再生されこらえきれず笑った。

アダムもこれら一連の自分の流れに

イブと共に笑った。


これが人類最初の笑いである。

幼児達が排泄物で笑うのは、人類最初の笑いが排泄物によっておこった為に違いない。排泄物は人類が最初に手にした最高のギャグなのである。

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