第7話 地球会議
地球が誕生したのは約46億年前と
いわれている。
この46億年間は地球にとって楽しかった事や、嬉しかった事。悲しかった事や、悔しかった事沢山あった。
地球はその時その時で国民というのか
惑民というのか分からないが、地球に住む全ての生命体と協力しながら共に歩んできたのだ。
ここはあるマンション
一人の若い男がベットの上で寝そべっている。入社三年目、大学を卒業をしたはいいが、特にしたい事も無く周りが就活するのでとりあえず適当に就活し適当に受かった会社に入った。
そんなんで入った会社の仕事に熱が入るわけはなく、毎日上司から怒鳴られる毎日。かといって別のやりたい仕事が有るわけではないのでダラダラと続いている。
今日は休日で暇だったので久しぶりに本でも読もうと、学生時代に教授に買わされた種の起源を本棚から引っ張り出し読んでいた。当時はとりあえず単位の為に買ったが、今読み返すとダーヴインの緻密な論文構成で地球誕生から今に続くこの自然淘汰の厳しさを読んでいくと彼の知的好奇心が刺激された。
しかしそれと同時に自分のチッポケさはどこかご先祖様に対して申し訳ないという気持ちが湧き上がり自分が情けなく思えてきてしまう。ご先祖様は数多のバケモノ達と自然淘汰の競争に勝ち続け、必死な想いで今の人間へと遺伝子を繋いだがその繋がれたパスは
毎日禿げた上司から怒鳴られる生命体なのだ。なんとも申し訳なくなる。
男が自己嫌悪に陥っていると部屋のインターホンがなる。誰だろう、と男が出ると頭に地球を被った人物が立っていた。
「こんにちは私は地球です
貴方は地球会議における人間代表に選ばれました。人間として自信をもって堂々と発言をして下さい。良い会議にしましょう」
これだけ言うと一枚のハガキを
差し出す。
ハガキには第40億回地球会議
と書いてある。最近の詐欺はユニークなものが多い、騙す側も手を変え足を変え思考を凝らしてくる。思考を凝らさなけなければ時代遅れとなり誰も引っかからないのだろう。詐欺師も詐欺師の世界で努力をしているのだ。でなければ自然淘汰の原理により消滅してしまう。
それにしてもこれはいささか飛躍し過ぎて誰も引っかからないではないだろうか、顔の地球を見て思わず吹き出しそうになる。
貰ったハガキに目を通すと、地球会議についてのスケジュールが簡単に書いてあった。どうやら会議は来週の週末に2日間にわたって行われ、地球に住む全ての生命体が出席して今後の地球について話し合うみたいだ。
「あのいったいなんなんですか」
とハガキから目を離し地球男に声をかけたら、地球男は既にそこにはいなかった。詐欺にしては金銭を要求してこなかったし結局地球男の目的がわからなかった。新しい宗教かもしれないな
と思って部屋に戻って読書を再開した。そして気づいたら日が暮れて
また上司に怒鳴られる1週間が始まるのか、と鬱になり就寝した。
長い長い一週間が終わる。ようやくたどり着いた金曜日。全てを忘れてこの二日間を過ごそうと思った男は家に帰って直ぐシャワーを浴びて、布団に潜り込み明日は何をしようかと考える
人生で一番幸せな時間だ。
しかし、余程疲れていたのだろうか。直ぐ男は眠りについてしまった。
男は気付いたら夢の中で大きな建物の前に立っていた。建物は白い議事堂みたいで前には噴水と左右には木が連なっている。
「こんにちは!!」
声のした方をみると、地球男が立っていた。こないだより幾分テンションが高い。
「ようこそ地球会議へ!
会場へとご案内しますよ。他の出席者は既に着席され、残るは人間代表である貴方のみです。何しろ人間代表ですからね特別ですよ。
あっ後これ入場に必要なバッジです
」
地球の形をしたバッジを渡すと、スタスタ建物に入っていく地球男。男はよく分からないままバッジを胸につけついていく。
建物に入って正面に大きな木造の扉があり、上に会議室と書かれたプレートがあるそこに入ると国際サミットのニュースで見るような大きな会議室。
中の部屋は薄暗く棚田のような作りの部屋で、一番奥には大きなスクリーンがある。地球男はスタスタとスクリーン下にある壇上まで歩いていく。
男もとりあえずついていくと地球男から壇上にある椅子に座るよう言われて座る。座ってみると既に着席してる奴らの顔をみて驚いた部屋が薄暗く、移動中は分からなかったが顔がみな動物なのだ。犬、猫だけでなくゴリラからキリンまで。サイズはそれぞれ170-175cmくらいになっており皆がスーツを着てピシッと座っている。
地球男は壇上中心にある机の前に立つと動物全員がヘッドホンを装着する。
「えー皆様本日はお集まり頂きありがとうございます。私は毎年この日が来ることを楽しみにしております。二日間という短い時間ですが、惑民全員が集まる素晴らしい機会ですので皆様腹を割って大いに語りより良い地球を目指しましょう。それでは二日間よろしくお願いいたします」
地球男の挨拶が終わると割れんばかりの拍手が会場に響いた。拍手が鳴り止まない中、地球男が男に近づいて
ヘッドホンを1つ渡す。
「このヘッドホンで全ての動物の言語が同時通訳されますので」
よく分からないまま、会議はスタートした。壇上の隅に地球男より一回り小さい月を被った人物が出てきた。
「皆様、本日の司会進行を務めさせていただきます、月です。では早速地球に御意見ご要望ある方は挙手でお願いいたします」
すると鳥の顔をした奴が手をあげる
「では、そこの渡り鳥代表のかたどうぞ!」
「最近、地球の磁場が弱いんだけど〜どゆうことスカ?」
今度はシロクマ代表が
「最近暑いわ〜しんどいー」
メダカ代表が
「ブラックバス強すぎんねん
あんなん普通できんやん」
様々な不満が飛び交う。しかしどんな不満も最後は、人間が地球をメチャクチャにしているということにいきついた。男も不満を聞きながら
いやにリアルな夢だな、と思っていたら
月が
「これらの意見について人間代表の方はどうお思いですか?」
突然振られて同様する男。
しかし月は男にマイクを渡す。
会社でもプレゼンや会議で意見を言うのが苦手で上司から怒鳴られる男である。そんな男が全生命体から一斉に責められながらこんな大きい会場で気のきいた意見を言えるわけがなくモゴモゴしてると。
牛代表が
「おいなんか言ってみろよ〜」
この煽りを聞くと、多くの動物達が
はやしたてる。
男は下を向く。
動物達のヤジは加熱していく…
結局男は何も言い返せず会議を終えた。
動物達の
「今年の人間代表は雑魚だな」
「張り合いがないまるでチキンだぜ」
種類は分からないが、魚代表と鳥代表がケタケタ笑いながら退場していく。
会議が終わった後地球男が男に駆け寄り、明日はよろしくお願いしますよ、
と声をかける。
気づいたら男はベットの上だった。
変な夢だなと思ってコーヒーを沸かそうと体を起こしたら、パジャマの右胸に地球の形をしたバッチを見つけた…
どうやら夢では無かったらしい。
地球男からもらったハガキとバッジを並べてみる。どうしたものか、変な事に巻き込まれてしまった。男はコーヒーを飲みながら、会議を思い出してみるサンドバッグのようにヤラレぱなしだった。ふと動物達のあの得意げな表情を思い出したら腹が立ってきた。
男は腹がたって腹が減ったので、近くのハンバーガショップでバーガーをいくつか買う。この一個数百円の存在に俺は…
ハンバーガショップの帰りに男は何となくホームセンターにいく、そこには檻に入れられた動物達がこっちを見ていた。その隣には水槽が有って熱帯魚が売られていて一匹何十円という単位で売られている…
男はホームセンターを出て近くの動物園と足をむける。そこで"展示"されている動物達の周りでは子供達が、かわいいと無邪気に大きな声を出している。
断っておくが男はこの一連の風景を見て動物達に同情をしているわけではない。地球においていかに人間が王者として君臨しているのかを再認識しようとしているのだ。地球に住む生命体は全て人間の手にかかっている。絶滅させようと思えば簡単に出来るし、動物の命だって子供のお小遣いで買える。人間こそが地球の支配者なのだ。
男は動物園をでて帰宅し、その晩はパジャマにバッチをつけて早く就寝した。
そして白い建物の前で目がさめる。
男が会議室へ入場するともう他の動物達は座って待っていた。
「おーい虫ケラまってたぜー」
「お前ら人間共は地球にとって害虫なんだよ!」
いくつかの昆虫代表が怒鳴る。
男はそのヤジを無視して壇上に進む。
男が着席したのをみると
月が
「それでは2日目の宇宙会議を始めましょう」
すると樹木代表が重々しく
「最近、ワシらの仲間がお前達人間に切り殺されている。この事についてどう思ってるのか聞きたい」
昨日のようにはいかない
男は月からマイクを取ると
「地球が誕生して46億年経ちました。そしてこの46億年間私達はこの地球というステージで競争してきました。ご存知のように私達人間の先祖は、決して最初からこの星の王者で有ったわけではありません。最初は水中で大型動物達のエサとして身を潜める毎日です。水中という地獄を脱げ出す為に私達は、エラ呼吸から肺呼吸へヒレから手を作り出し地上へ進出したのです。しかし水中を逃げ出したご先祖様を待っていたのはまたしても競争でした。地上でも恐竜をはじめとする大型動物達が支配しており、身を潜める毎日です。水中での生活と何も変わりがありません。そこに大型の隕石がやってきて地上の温度はとても生物が過ごせるような環境ではなくなり、地中へ逃げたご先祖様。温度が下がってきたと思ったら、今度は想像を絶する寒さが地球を襲います。この厳しい環境の中で全ての生命体がそれぞれ優れた生物となる為に努力してきました。牙を尖らせた者も居るでしょう、身体を大きくした者もいるでしょう。空を飛べるようになった者。全ては他の生物より優れた者になるためです。
一方人間は脳を成長させました。
ただ林檎を食べただけではありません。優れた生命体となり安定的な繁殖をする為に努力し進化した結果なのです。人間より大きく強い獰猛な動物達には結束し、石を尖らせた武器を持ち戦ったのです。学びと、結束と、知恵という素晴らしい武器はどんな牙よりも強力で、どんな翼より便利なのです。そして人間は地球の支配者として今のポジションを確保したのです。
貴方達は何をどう努力したのですか?
いいように人間に飼われ、いいように人間に支配されて居るではありませんか。ある観光地の動物は自らエサを探さなくなるそうです。観光に来た人間からエサを貰えるから。
これは進化ではなく生命体として退化しているではありませんか。
かつて貴方達の先祖は私達にとって生命を脅かす存在でした。
それが今や子供達を喜ばす道具でしかないのです。
私達のせいで絶滅の危機に陥ってる生命体を何故助けなければならないのでしょうか。
この地球はそんなに甘くありません。
この46億年間という長い戦いの中でいったい何種類の生命体が絶滅したでしょうか。恐竜がこの生命体は絶滅危惧種だから食べるのはよそう、と捕食するのをためらったのでしょうか。
地球は強者のみが生き残る世界です。
決して甘くありません。
不満があるなら進化して我々人間を脅かし叩き潰して、地球の支配者になりなさい。」
男の演説を動物達は静かに聞いていた。中には悔しくて泣いている動物達もいるそこからは手を挙げて不満をいう動物達がいなくなり会議はお開きとなった。男は動物達を黙らせることができ得意げな顔でヘッドホンとバッチを地球男に返した。
地球男はどこか悲しげ表情をしていた。いや実際には顔が地球なので表情は読み取れないがどこか悲しげだった。
しかし男は気にせず会場を出る。
会場をでると男は自分のベットの家で目がさめる。
今日は月曜日なので会社へ出勤する。
上司に先週つくった資料に対してケチをつけられる。
しかし今日の男は気分が良い
すぐ資料を修正する。
地球会議が終わり数ヶ月
それ以降男の前に地球男が現れる事はなく、夢であの議事堂を見る事はなくなった。また何時もの生活に戻り
時間は過ぎていく。
ある日男は上司に会議室へ呼ばれる。
またなんか怒られる事をしたのかなと
会議室に向かうと、いきなり来月でクビだと告げられる。あまりにも急な話で何故ですかと聞くと、近年起業した同業社に得意先を取られ事業縮小が決まったらしく、人員削減をする事になったらしい。その会社なら知っている。最近TVによく出る実業家が作った会社だ、それにしても急すぎる。
上司は言いにくそうに今月いっぱいは頑張ってくれたまえ、というと会議室を出て行った。
その一カ月は上司も特に怒鳴ることはなく、男も適当に仕事をして最後の日を迎えた。上司から特に言葉もなく、自分の机を片付けて退社した
次の日、仕事に行かなくても良いのにクセで無駄に早く起きてしまう。
また就職活動をしなくていけないな、
と思いながらと朝のニュースをつける
するとあの実業家がコメンテーターとしてTVに出て新しく作った会社について意見を求められていた。
「この世界は競争です。進化を怠った者から強者に食われてしまいますーーー」
地球が誕生して46億年間たった。
未だにこの地球では競争が続いている
おそらく地球がなくなるまで、この競争は続けられる。
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