異世界の果て 17
自分自身が生贄になる。
そういう発想を最も嫌っていたはずなのに、それが己に対する罰だと思った瞬間に、嫌悪感は減っていた。
いや、嫌悪感を上回る使命感とでもいうべき感情が、タジの心の奥から湧きたっている。
とは言え、タジは簡単に死んでみせる気もなかった。
「お前が孤独のうちに己の使命を見出せなくなったのなら……人間を管理するうちにその意思に感化され、欲望に白熱するようになったのなら、俺が一時でも一緒にいて、お前の使命を思い出させてやろうって言ってるんだよ」
「使命?僕の使命はこの世界を平和のままに管理することだよ」
「いいや、それが間違ってるんだ」
タジの身体は、すっかり人間の形を取り戻した。指先の爪にいたるまでしっかり再構成されており、異世界に飛んだ時の姿そのままである。試しにその場で体を動かしてみると、その身体は思った以上に軽い。限りなく無重力に近い空間なのだろう、上下の感覚はあるが、飛び跳ねればどこまでも飛んでいけそうだった。
「お前の使命は、この世界で……唯一お前の管理外だというこの世界で、よく生きることだよ」
「……生きる?」
「そうだ。お前は自分を神だと思っている。確かに、この船内に保管された無数のトライアングル……意思ある者はお前の作る世界の中で生きているんだろう。それらすべてを管理するお前は、そこにおいて間違いなく唯一の神だ。しかし、この空間では違う」
「確かに、この世界は僕の管理とは無関係の世界だ。それでも、僕はこの世界を永遠に旅し続けなければならない」
どこに辿り着くこともなく、何を見つけることもなく、永遠の無に向かって進み続ける。ディダバオーハとは、そういう存在だ。
「お前は神を演じ過ぎた」
「演じる、って……僕は神だもの」
「この空間では、違う。お前はお前の意のままにならない世界でこそ、神になれない世界でこそ、生きなきゃならないんだ」
異世界だから、何でも自分の思うがままになんて、できない。なれない。
なれっこない。
だからこそ、自分の思うがままにならない世界で、自分の思うようにしたい。
それが欲望で、それが生きるということだ。
「お前は、箱庭の外で生きているんだから」
「箱庭の……外……」
「なあ、どこかにお前の本体があるんだろう?そこに俺を案内してくれよ。そして、俺が死ぬまで、お前の相手をしてやる」
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