異世界の果て 07
音のない世界で、光だけが急速に膨れ上がったと思うと、遥か彼方で次々と宇宙が生まれていく。
それは銀河の渦を作りだし、銀河の中に無数の星を作りだし、そしてきっと、そのうちのどれかに人間が生まれるのだ。なぜなら、この世界は意思によって満たされて作られたのだから。
タジは、もはや光球の中に閉じ込められたと言ってよい存在になっている。その背丈を測るいかなる尺度もなく、自分が銀河よりも大きいのか、それとも今までと同じようにちっぽけなのかも分からない。
「君はもう、僕の世界のスケールでは測れないんだよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「いや、褒めているわけではなくてね。バグだから、君のあらゆる行動が僕の世界に干渉し、壊してしまう。それは僕を創り上げた人たちの力だ。だからね、こうして隔離するしかなくなったって訳さ」
確かに、光球の中に閉じ込められた今の状態は隔離といって間違いない。感染力の高い病原菌を持った人間を閉じ込めておくように、タジは今まさにディダバオーハの世界から隔離されていた。
「タジ、これから君には二つの選択肢がある。僕と一緒に世界を操作する側の人間に……いや、神になるか。それとも、僕の手でこの世界から完全に隔離されて、意思を失い無の世界へと放り投げられるか」
「それは選択肢とは言わないだろう」
前者はまだしも生き残れるとして、後者に関しては事実上の殺害宣告だ。
「無警告に殺害しないだけマシだと思ってくれていいよ」
「だいたい、お前は約束を果たしていない」
「……約束?」
「俺の彼女が、このちっぽけなトライアングルだとお前は言うが、俺はその意味が分からない。神であるお前自身がお前を利用しろと言うんだ。説明してもらおうか」
目の前のつくしのような真っ白の円柱。その正面についた漆黒の正四面体は、一つの生物の情報であり、それこそがタジの求め探していた彼女の……。
「残念ながら俺は普通の人間だから、これが彼女だと言われても人間の形をしていないのだから確かめる術はねえんだよ」
「おっとそれは失念していた。僕から見えるあらゆる生物の情報は、その姿形にしか見えないものでね」
ディダバオーハから見た生物は全てこの形をしているという。人間が野生の猿の姿形を区別できないように、唯一神から見たあらゆる生き物は、そうしてただの意思と情報の形としてしか見ることしかできないのだろうか。
「情報を解凍するよ。目の前にある器が彼女を形作るから、少し待っていてね」
言うが早いか、真っ白い円柱はその正面に付いていた漆黒の正四面体を飲み込み、大理石から彫像が作られるように、余分なものがそぎ落とされて、人間の形がタジの目の前に現れた。
真っ白だったその表面はタジの気づかないうちに着色され、無機物に血が通うようにして彫刻が自然な肉感を湛えはじめる。
「ああ……」
確かに彼女だ、とタジは思った。
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