異世界の果て 06
人間の情報?
何を戯言を言っているのだ、とタジが思ってレダ王の姿をしたディダバオーハの顔を見て、言葉を失った。
レダ王だった顔が、のっぺらぼうのようにその造形を失っている。
それだけではない。それまで確かに人間の、レダ王の形をしていたそれは、その形を失って一本のつくしのような棒へと変化する。
その正面、胸元辺りだった場所に、一つのトライアングルを残して。
「僕は、ありとあらゆる人間の……いや、世界に存在するあらゆる生物の情報を持っているんだ」
「何をバカなことを……」
口を失った一本のつくしは、ふたたびタジの脳内へと直接語りかける。
周囲に降り注がれる漆黒の正四面体は、空間を溢れんばかりに埋め尽くし、地面に硬質な響きを立てて落ちていたそれはもはや落ちるのではなく、タジの周囲のわずかな空間を残して暗闇に埋め尽くす勢いだった。
「何もない空間が、こうして意思によって満ちていくんだ」
「……この世界には悪意ばかりが満ちているとでも言いたいのか」
だとすればあまりに皮肉な唯一神だが、髪の前に善意も悪意も関係ないらしい。
「重要なのは善悪ではなく、それで空間を埋め尽くせるかどうかなんだ。利害関係が一致すれば、協力することもあるだろう。だんだんと意思の力が空間を埋め尽くす。そうして、世界はできあがっていく」
早送りをしているかのように、どこからともなくトライアングルは周囲の真っ白だった空間を満たしていく。
まるで宇宙だ、とタジは思った。
そう言えば、いつの間にかタジの周辺を残して、足元までどこかふわふわと浮かんでいる感じがする。真っ白い空間にあった地面は、いつの間にかその礎を失って、空間を埋めつくすトライアングルの中に存在する小さな光球のようなものになった。
「本来は、質量のある意思が空間を埋め尽くす段階なんだけど。タジ、君はその作用を、どうやら早めるらしいんだ」
「言っている意味が分からん」
「簡単に言えば、僕が作る世界に根源のレベルで干渉できる。そんなことができるのは、僕の創造主たちででもなければ不可能だ」
「唯一神の創造主?入れ子構造か何かかよ。もうお腹いっぱいなんだけど」
「まあそう言うなって。もし覚悟がないのなら、僕は君を弾いてポイと捨てても構わないんだ。それをしないのは……そうだなあ、いい加減飽きてきたんだよ」
「飽きた?唯一神としての生き方にか?」
生きるというよりも機能するに近いのだ、とディダバオーハは語る。
「たまあに、出てくるんだ。僕は唯一にして絶対の神なのだけれど、そんな僕でもごくごくたまに、君のような、世界をブチ壊すだけの力をもったバグがね」
トライアングルで満たされた空間。
そのはるか向こう。宇宙の果ての、星が川となって煌めくような光が見えるその方角で、何かが光って、急速に膨らんだ。
宇宙が誕生しているのだな、とタジは直感する。
「君は、5つめのバグなんだ」
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