異世界の果て 03

 皮膚病のように発症した正四面体柄の発疹をふりほどこうとしているように、タジには見えた。

 牛や馬が身体についた水を胴震いで弾き飛ばすように、竜はブルブルと体を震わせ続ける。しかし、発疹は内部より発生しているらしく、身震いでは落ちるべくもない。

「うわっ!?」

 痙攣し続ける竜は、悲痛な声を上げ続け、やがてはじけ飛んだ。

 一頭の竜が最初にはじけ飛ぶと、その破裂音と共に衝撃が周囲を襲う。他の竜たちも臨界点に来ていたのだろう、はじけ飛んだ竜の衝撃によって、ポップコーンのように次々破裂していく。

 はじけ飛んだ竜の中から出てくるのは、漆黒の正四面体。

 発疹は模様ではなく、皮膚内から食い破る虫のように発生していたのだ。

 バラバラと、手のひら大の漆黒の正四面体が降ってくるのを、タジは両腕で遮りつつ眺めていた。

「……どういうことだ?」

 何が何だか分からない。

 竜の中には漆黒の正四面体が入っており、それが弾けて降り注ぐ。竜は漆黒の正四面体の宿主だったのか、はたまた意思をもった卵だったのか……。

 霰のように降り注ぐ漆黒の正四面体を一つ、手にとってみる。するとそれは雪のようにタジの手のひらの上で溶けて、そのまま染み込んでいった。

 あれだけ硬く、どんなことをやっても壊れなかったはずの漆黒の正四面体が、こんなに簡単に溶けるなどありえない。タジのそんな思いとは裏腹に、腕や体に当たる漆黒の正四面体は、柔らかくタジにぶつかっては、溶けて染み込んでいく。

「あらら、とうとうそんな事態になっちゃったかあ」

 不意にどこかから声が聞こえた。

 それはミレアタンが語りかけた時のように、方向性のない、直接脳に響いてくるような声だった。

 タジは、軽い口調のその声色に聞き覚えがあった。

「ディダバオーハ」

 名を呼べば、その者の姿形が現れる。

「やあ、タジ」

 呼びかけと共に、周囲の景色が変化した。

 激しい頭痛にタジが一瞬目を閉じると、巨木の森に漆黒の正四面体が降り注ぐ場所から放り投げられるような感覚があった。

 尻もちをついて目を開けたタジは、わが目を疑う。

「……さすが、唯一神となのるだけのことはある」

 また別の世界へと飛ばされたらしい。

 巨木と竜の異世界から、何もない異世界へ。

「ここはね、異世界の果てだよ」

 真っ白い地面、真っ白い空。無地の紙の上に適当に線を引いて、そこが地平線だとでも言わんばかりの、真っ白な世界。一面の銀世界でももっと何かあるだろうと思わせるような、温度も何も感じられない世界。

「まだ何もできていないじゃあないか」

「異世界の果てだからね、工事中なのさ」

 真っ白な世界の、空間が一部グニャリと歪むと、そこからのっそりと一人の女の子が現れた。

「……エダード?」

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