異世界の果て 04

 ディダバオーハは、自身に特定の姿形が無いと言った。

 姿形で判断をするのは、それが何者かと区別するためであり、何物にも代えがたい存在である場合、それはまた何物にも姿を変えることができる、とも。

「そもそも僕はこの世界の創造主だから、何でもできるんだ」

 空を飛ぶことも、自身の姿形を変えることも。と言って、エダードの姿形をしたディダバオーハは、内部から蠢く何かが生じるようにその肉体を変化させた。

「こんなことも、ね」

 タジが出会った様々な人間に姿を変えていく。その中には、かつての戦いの中で命を落とした騎士や、ミレアタンが時の牢獄に閉じ込めたときに出会った女性の姿もあった。

「まるで、覚えたての芸を見せたがる動物みたいだな」

「安い挑発ありがとう。でも残念ながらタジ、君も僕が作った被造物の一つなんだ。子どもに挑発されて本気になる大人がいないように、僕は君の挑発を憐れにすら感じるよ」

「ガキは容赦がないから挑発もエグいもんだがね」

 レダ王の姿になったディダバオーハに対して、タジは反論にもならない言葉で応じる。笑顔のレダ王は、声色もかつて聞いたものだった。

「でも君はそこまでガキになりきれない、違うかい?」

 よいしょ、と言って、レダ王は真っ白い空間のその場に深々と腰かけた。そこには一切の設置物がないようにしか見えないのに、彼が座ると確かにそこには玉座があるようにさえタジには感じられる。

 そしてタジがそう感じた次の瞬間には、ディダバオーハの後方に見事な装飾のついた玉座が現れるのだった。

「どうせなら、俺にもその椅子を作ってくれよ」

「嫌だね。あ、ちょっとでも座ろうとしてごらん?君は尻から真っ逆さまにこの空間から弾き飛ばされるよ」

 肘をついて身体をもたれかけて意地悪く笑うレダ王は、威厳よりも幼さのようなものが目立つ。

 安い挑発の意趣返しとして、その場に立っていろという唯一神の大人げない仕打ちに内心苦笑いしつつ、タジは立ったまま、腕を身体の前で組んだ。

「で、こんな場所に俺を連れてきてどうするつもりだ?まさかこの場所に俺を永遠に閉じ込めておくつもりか?」

「それも良いかなと思ったんだけどねえ。タジ、君は恐ろしいことに自己増殖と突然変異を繰り返す非常にやっかいなバグなんだよ」

 こんな場所には閉じ込めておくこともできない、とレダ王は片眉を上げた。

「……どういうことだ?」

「簡単に言うと、君は僕の世界に存在していてはいけないってことさ」

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