異世界の果て 01
目を覚ましたタジの目に入ったのは、苔むした城壁の跡が巨木の根によって押しつぶされそうとしているような、深い森だった。
体をもたれかけていた地面には潤った苔が群生しており、手をつき立ち上がろうとすると、湖沼のように手のひらがグズリと濡れる。
尻が冷える。
さきほどまでの景色とは全く異なる、人工的な物が全て自然の中に埋没してしまったかのような姿に、タジは再び自分がどこか別の世界に飛ばされてしまったのを理解した。
「理解した、って言っても、そう何度も別の異世界に飛ぶもんかよ」
不平をもらしても、そういうものだという認識でしかない。もしかしたら、この世界もまたタジが最初に転生した異世界の時代違いかもしれない。しかし、時代がわずかでも違えば、それはもう異世界と言っていいほどに、生活様式も文化も何もかも変わる。
顎を上げて上空を見れば、コンクリートで建てられたビルを思わせる巨大な植物は、空を覆わんばかりにその巨体を天に向かって伸び続けている。その天辺は視界に霞み、雲に届いているのではないかと思うほどだ。
「というか、実際に雲に届いているんだな」
軽い気持ちで跳躍を試みたタジは、自身の身体が思った以上に軽いことに驚き、巨大な植物の幹を三角飛びで跳ねながら上空に向かって進むうちに、その植物の途方もない背の高さにまた驚いた。
もし、植物の根に押しつぶされた城壁跡がかつて人間が文明を栄えさせていたものだとすれば、それから一体どれだけの年数が経ったのか。植物の育ち具合を見るに見当もつかなかった。
まるで近所を散歩でもしているかのように空中を跳び続けると、やがて植物の幹は枝葉を伸ばし始め、太陽の光も徐々に熱をもって感じられるようになってくる。
地面からどれだけ跳んできただろう。
枝葉の隙間をくぐるようにして、全身に太陽の熱と青空を感じられる開けた場所に辿り着いた。
影が、タジの更に上空を通り過ぎていった。
「……ドラゴンだ」
ミミズか蛇を思わせる細長い竜が、タジの真上を通り過ぎていったのだ。竜は羽も持たず、気流に流されるようにスルスルと漂っている。それも一頭だけでなく、何頭も。
姿形こそ、東洋の竜を彷彿とさせるものの、それらはみなどこか生気がない。竜の形をした細長い風船が飛んでいるようにさえ見える。
「何だろうな、まだ魔獣の方が生きている感じがしたんだが……」
マジュウ。
その言葉をタジが発した瞬間に、生気のない風船のような竜たちが一斉にタジの方を向いた。
「なッ、何だ!?」
――キュオオオッッ
一頭が金切り声のような鳴き声を放つ。すると他の竜もそれに共振する。
共振は空全体に広がり、太陽の光が歪んだと感じるほどに、耳にうるさく響き始めた。
――キュオオオッッ
パキ、パキ……。
タジが乗っている巨木の枝が、高周波のような竜の鳴き声に耐え切れなくなってきた。
「おいおいおいおい」
タジが乗っているために負担が大きいからだろう、飛び移るように木々を移動するタジのいるところから、巨木はミシリと軋んで枝を落としていく。
金切り声は止まらず、木々はその身を崩壊させ続ける。
「どんな世界観だよ!」
少なくとも、人間の住むような場所では無いことは確かだった。
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