盗人の城 43

 盗人の城。

 それはかつてタジが目を覚ました泉の直上に建てられていた。

 礎からして切り出された石をふんだんに使い、一体どれだけの人工を用いてこの巨大な城が建てられたのか、タジの想像を絶するほどだ。

 もっとも、それは内燃機関をもたない重機のない世界での計算であり、その代替としての魔法や、それに準ずる技術がある世界であれば、あるいはタジの想像ほどには大変な作業ではないのかもしれない。

 しかしいずれにしてもこれだけ巨大な建物を作るには相当な時間を要したはずだ。その上、建て増しをした様子はなく、最初からこの形として設計された趣きがある。建材も、その内装も、眠りの国の城とは打って変わって、瑞々しいと形容したくなるほどにピカピカだった。

「まあ、新興国なんだからそういうものだろうな」

 エダードが言うには、タジの光球頭は確かに呪いかもしれないが、その呪いは同時に漆黒の正四面体、神の祝福に対抗するための抗体かもしれないのだそうだ。認識のズレが世界に認められるというのは、タジという生命の情報がその世界の理に対抗するための云々。

 いくら理屈を重ねようと、この世界から爪弾きにされていることは確かであるし、対抗できようとできまいと、今は漆黒の正四面体の謎を解かねばならない、とタジは考える。

 根源、根幹。

 この世界はあまりに小さい。

 一国の周囲を魔獣が取り囲み、あるいは海、あるいは峻険な山で隔絶された地域。人々はその外に目を向けず、魔獣と魔法とに囲まれて生きている。

 外の世界に目を向けないのは、なぜか。

 この国の根源である、巨大なトライアングル。それは、問いの大きな手がかりになるかも知れない。この世界の理を知ることが、彼女を探す大きな手掛かりになるかも知れない。

「もし、その巨大な力を破壊するのではなく利用できるのであれば……な」

 エダードは、紅き竜を呼び出して、紙縒の国の上空を旋回させた。降り立つわけではなかったが、伝説に聞く紅き竜の登場は、紙縒の国を混乱におとしめた。赤き竜がタジの使役する竜だと知っているのは紙縒の国でもかなり限られた人物であったし、紅き竜がエダードと同一であり、彼女が眠りの国に力を貸しているという事実の方が、より人口に膾炙している。

 国内の混乱に乗じて、タジは紙縒の国の城へと侵入し、目的地へとあっという間に到着した。

 数十人の見張りの騎士たちを全て気絶させ、警笛一つ鳴らさせることなく侵入したそこには、たしかにあの泉があった。

「帰ってきた、って感じはあまりないな……ちょっと、想像だにしていなかったぞ」

 松明の炎に照らされて、果たして泉はそこにあった。

 しかし泉の水は、ものの見事に真っ黒だった。

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