祈りの歌姫と紅き竜 09
「アルアンドラ様から急使が商会に来ましてな、何事かと思えばタジ殿たちの朝食を手配しろとのお達しでして、とりあえず見つかってよかった」
二人が兵舎を出てすぐに、アルアンドラが非番の騎士を叩き起こして急使としたのだった。商会は一時、何事かと騒然となったらしいが、騎士団の仕事が不正の監視と税の取り立てというのだからむべなるかな、いかに清廉潔白たらんとしても、商売の駆け引きの中には常に触法すれすれを歩くこともあろう。突然現れた騎士団員は、抜き打ち検査の人員と受け取られた。
「いやあ、何ら悪いことをしているわけではないのに、突然騎士団から人が来ると緊張するものですよ」
ゴードの所属する商会と懇意にする飯店の一つに、無理を言って朝食を作ってもらうことになった。丸いテーブルにタジとイヨトンとゴードの三人で座る。何でも注文してよいというので、タジはハシアと呼ばれる鳥の肉を乗せた粥を、イヨトンは羊肉のサルシッチャを入れたポトフを注文する。共に朝の定番メニューである。
「えーっと、ハシアはあるのですが、羊肉のサルシッチャは品切れで……ハシアのポトフでよいのなら出来るのですが」
「あ、それではハシアのポトフでお願いします」
在庫状況が分かっている店員に物珍しさを覚えて、奥に下がっていくのをまじまじと眺めていたら、ゴードに妙な目で見られる。
「タジ殿はあのような女性がお好みですか?」
店員は肥満に片足を踏み入れたくらいの体格で、浅黒い肌と中性的な声質、お世辞にも美しいや可愛いという言葉には分類されない類の女性だった。
「どちらでもない。俺が目で追ってた理由は、彼女が厨房の在庫状況を知っているのに驚いたからだよ」
「当然ですよ、彼女はこの店の主ですから」
懇意になっている商会の顔を立てるために店を開けたが、その理由が知りたかったということだろう。現れたのは騎士団員のイヨトンと所属も出身も謎の男。とはいえ騎士団員が付き添っているのだから何らかの影響力のある人間だ、と店側が考えるのも無理はない。
「店のことを考えれば自ら接客した方が失礼なことにはならない、ってことか」
「不愛想ですが、味は抜群ですよ」
ゴードの言葉を商人の誇張表現程度に受け取っていたタジだったが、実際に食事が運ばれて一口食べると、その言葉に何の誇張もないことを思い知るのだった。
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