【番外編】川のぬしづかみ 14
翌日。これから成長していこうという村の活気は朝から相当のもので、教会が朝の鐘の音が響くと、村はにわかに騒がしくなった。朝食を終えた村人で村の中央広場は賑わい、騎士団も混ざってそれぞれの仕事に向かっていく。
クレイは川岸で一人、昨日と同じように座り佇んでいた。呆けた表情ではなく、何か固い決意のようなものが感じられる。やがて立ち上がろうとするところで、背後から声をかけられる。
「よう、やっぱり暇してるんだな」
「……兄ちゃんも同じじゃん」
タジだった。片手に羊皮紙の切れ端とペン、それから木製のインク壺を持っている。ほら、と言ってクレイに手渡すと、クレイは首を傾げた。
「持ってろ。川の調査に行く」
「……今から熊を倒しに行くんじゃないの?」
村人はタジがガルドを倒したことを知っている。それは老若男女関係ない。クレイも当然そのことを知っており、そのタジが熊を倒しに行くというのだからと決意をしていたのだ。
それが今、渡された羊皮紙と筆記具である。クレイは困惑していた。
しかし困惑しているのはクレイばかりではない。タジもまた困惑していたのだった。ぬしを捕食したのが熊のせいになっている以上、水棲の魔獣に関する調査が熊の調査と全て関連づけられるとも限らない。水際の調査が熊の調査に関係していることをクレイが信じて疑わないこともあるだろうが、一度何かに疑問をいだいてしまえば、そこから先は質問の嵐だ。と同時に、嘘がバレれば信用に傷がつく。
何より、タジは嘘が上手くなかった。
「あー……お前だけには説明しておこう。良いか、他の奴に言っても不安がらせるだけだから絶対に言うなよ」
だとしたら、最初に説明した方がよい。
「クレイが捕まえたがっていた川のぬしは、魔獣だったんだ。水棲の魔獣としては珍しい種類だったらしく、調査が必要だということで、一時的に川を利用禁止にしている」
調査を終えてもただちに川が再びもとの遊び場になることはない、というところまで簡単に説明すると、クレイは難しい顔をしたものの、いくらかは納得したようだった。
「調査をすればもとの遊び場に戻るのは早まる、ってことだよね」
「絶対そうなる、って訳ではないが、まず間違いなく一助にはなるだろう。魔獣に関する詳しい知識は俺にはなくとも、魔獣を退ける力はあるし、ただの村人が調査するよりはずっと有益な情報が手に入れられる」
「うん!頼りにしてるよ、兄ちゃん」
こうして、たった二人の頼りない調査隊は、水棲の魔獣についての調査を始めた。
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