屍霊術士は物足りない

タイプE

壱 とあるロリータによる睡眠妨害

 御珠みたま市は、かろうじて市と名乗れるレベルの人口と、開発が進んでいるとは言いがたい程度のインフラを持つ、平穏な街だ。

 「――っ、間に合ってくれよ!」

 どこかの主人公が言いそうな台詞ベスト10ぐらいに入りそうな言葉を言いながら通学路を疾走する俺は、残念ながらプリーツスカートを履いた黒髪ロングの美少女ではないし、ジャムすら塗ってないただのトーストなんかも咥えていない。俺の名は暗堂あんどう 黎次れいじ。御珠市に住み地元の桜丈おうじょう高校に通っている、現役の高校生だ。現在遅刻と戦っている。というのも、昨日は耳鳴りがひどくて寝付けなかったんだ。


 ――昨夜――

 ベッドの上、俺は毛布にくるまっている。時刻はだいたい12時。

「ああくそっ……眠れねぇ」

 かれこれ一時間ほど眠ろうとしているが、何故だか睡魔は襲って来ない。ずっとソシャゲをやってたからかな……

「ああもう……」

 狭いベッドの上を左右にごろごろしていたその時――

 ―キイィィィン―

「……んあ?」

 突然、耳鳴りがした。直後、

 ――おいお主、聞こえているか――

 何者かの声が響いた。

 驚いた俺は、ベッドから飛び起きる。

 「何だこれ!?」

 ――言伝てがある。覚悟して聞くがよい――

 「はあ?」

 辺りを見回したが、ここは俺個人の部屋。他に誰もいるはずがない。

 ――『頭の中に直接語り掛けている』というやつだ、私はここにはいない――

 いきなりの出来事に脳の処理が追いつかない。お前は誰だ?何で俺を?どうやってこんなことを?

 疑問は沢山あった。しかし最も気になったのは。

 「……お前、口調の割に可愛い声してんな。」

 奴の声を形容するなら、十人中の十人が『ロリっぽい』と言うだろう。そんな声だ。

 ――は?ち、ちょっと、うるさいうるさい!私を馬鹿にするなぁ!――

 「……」

 先ほどの余裕たっぷりの喋り方はどこへやら。何だかすごく動揺してるようだ。

  ――私はもう子供じゃない!『可愛い』じゃなくて『格好いい』声だっ!訂正しろー!――

 「はは……何だこれ。俺疲れてんのかな」

 ――無視すんなーーー!――

 うるさい。確かに可愛い声だが、頭に直接響くせいで頭の中がガンガンする。いい加減にしてくれ。

 ちょっとイラっときた俺は、少し厳し目に色々言ってやることにした。

「おいお前」

 ――何?――

「まず人に物事を頼むときには、丁寧な口調で喋りなさい」

 ――はぁ?お前、私を誰だと思って――

「黙れ」

 ――んぐっ――

 一蹴。

「それにだ。訂正しろったってお前の声が可愛い声なのは紛れもない事実だ」

 ――だから違――

「うるせえ」

 ――はうっ――

 一喝。

 更に続ける。

「覚悟しろって何をだよ。言伝てとか難しい言葉使っちゃ分かりにくいだろ?」

 ――ぐぬぬ……――

 調子に乗った俺は、とうとう。

「第一、そんな子供みたいな声で凄まれたって――」

 それを口にした瞬間、雰囲気が変わった。俺は後悔した。

 ――そんな、私はもう……――

 声が少しずつ震え始めた。まさか。

 「おいおい嘘だろ!?」

 とうとう虚勢は決壊したようで。

 ――うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!――

 例えるなら、真横でマイクのハウリングを聞くような。脳内に絶叫が響き渡る。

 ――ぼうっ!ごどっ、ごども、ごどもじゃぁぁぁぁっ!――

 「頼む、頼むから泣き止んでくれぇ」

 ――ぢがうっ、なびでなんが、なびっ、なびでなぁぁぁぁぁん!――

 「嘘だ……これは夢だ……悪夢だ……」

 ――びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!――

 (泣くならせめてこのテレパシーを止めてからにしてくれよ……)

 そんな俺の儚い願いも届かずに、どれ程の時間が経っただろうか。絶叫はいつの間にかすすり泣きに変わっていた。

 ――うぇぇ……えぐっ……ぐすん……――

 結局、夜明けになるまですすり泣きは止まなかった。

 地獄のコンサートはやっと終わった。ふと時計を見る……もうこんな時間だ。

「クソ、眠ぃ……」

 しかし、もう登校準備をしなければ間に合わない。疲れた体に鞭を入れ、腰掛けていたベッドから立ち上がる。

 問題はこの時に起こったんだ。膝が伸びきるか伸びきらないかといった所で、

「ぁ」

 気付いた頃にはもう遅い。俺の体は、少し暖かい毛布とふかふかの枕の上に、背中から倒れこんでいた。

 時計のアラームが鳴っていたような気がする――


 ……あれ?耳鳴りじゃないぞこれ。あのロリ声のせいじゃないか!

 「何だったんだアレ……」


            To be 魂tinued...

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