第2話

諏訪子の両親は二人ともスマホを持っている。


山奥ではあるが集落が存在しているので、このあたりは圏外にはなっていない。


菊江が梶谷の顔を覗き込んだ。


顔がやけに近い。


「こっちからかけることはないし、かかってくることも滅多にないわね。でもね……」


「でも?」


「もしかかってきても、絶対に電話にでちゃだめよ。いいわね」


菊江の表情は、やけに真剣だった。


電話に出てはいけない理由を聞こうとした梶谷が、それを躊躇するほどに。


「わかりました」


「大事なことだからもう一度言うわよ。かかってきても絶対にでちゃだめよ」


「わかりました」


部屋に案内され、菊江が去った後、梶谷は思った。


――スマホがあるのにこんな電話にかけてくる奴なんて、それはどんな奴なんだろうか?


菊江はどうして電話に出るなといったのだろうか。


そしてもし電話に出たら、いったいどうなるのだろうか?



昼にこの村に着き、少し遅い昼食をとった後、さっそく墓参り、と言うより墓掃除に出かけた。


そして農作業を済ませた頃には、日が暮れかかっていた。


「ご苦労様。もうすぐ晩御飯よ」


慣れない作業で疲労を感じていた梶谷に菊江はそう声をかけると、台所へと足を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る