第2章
もう11月も終盤を迎え、本格的な冬を迎える準備が修二や舞の住む町にも、始まりかけていた。
修二は一人机の上に左ひじを立て、
そう思っているうちに、修二自身の封書が回ってきた。
開封し判定結果を一番に見た。
「ふう・・・。」
修二は大きくため息をついた。
※
模試の回答を見て、
「何やってるの? 修二は。」
と、ちょっと
舞自身、進学に関しては、
「修二と近く、もし出来ることなら同じ大学に一緒に通えたらいいなあ。」
ぐらいしか考えてなく、模試の進学希望大学の欄には安全パイのところしか記入していなかった。
初めのころは
「舞と同じところにければいいよ。」
なんて嬉しいこと言っちゃってたけれど、なんか最近は何かの目的をもって行動しているみたいに、舞の目には映っていた。
お昼休み、舞は修二を校舎と体育館のつながる、屋根つき通路の端に呼んだ。修二と舞はお互い対面し合う格好になっていた。
舞は両手を後ろに組んで、ちょっとつま先立ちしながら修二に質問した。
「修二、今回の模試、ちょっとうまくいかなかったの?」
「いや、そんなわけでもないけど・・・ちょっとね。」
「何よ。その変な返事。」
舞は上目づかいで、『何か隠してんでしょ。』という言葉を含んだ視線を修二に向けた。
目線を合わせていた修二は、音の出ない口笛を吹く動作をしながら空のほうに視線を外した。
舞はカッとして、
「なに! 意味わかんない!!」
と
「!!」
「痛ってえなあ! 舞!」
そんな修二の言葉も聞かずに、舞はもう校舎の中にズンズンと入っていった。
※
修二はここ数か月前からあることを思い出していた。今はもういない、妹の
もうずいぶん前の話になる。修二がまだ小学校3年生、絵里が小学校1年生だった。
休みの日、母と修二と絵里は市街地で買い物をしていた。
絵里は母に手をつられて歩いていた。大きな十字路の交差点で渡ろうとしたとき、正面に大きな犬を連れた中年の男性がいた。
絵里はそれを見ると、とたんに興奮し、
「わんわんだ!」
と大きな声を出して母の手を放し、まっすぐ前を走りだした。
歩行者信号は青だったので母も僕も少し気を許してしまった。
その直後スピードを出したまま左折するトラックが後ろからやってきた。
修二と母は、絵里が目の前でトラックの左後輪に引っ掛かりそのまま左手方向に引きずられていくのを見ているしかなかった。
母が、
「絵里!!」
と叫ぶと同時に座り込んでしまった。
修二は駆け足でトラックの方向に向かっていった。
トラックは約10メートルぐらいまで妹を引きずって止まっていた。その道筋は妹の血できれいに描かれていた。
ドライバーが降りて、ただ
母はずいぶんと落ち込み、心療内科へと通院した。うつ病一歩手前と診断された。
父は、修二の面倒を見ながら、母の看護を献身的に努めていた。
でも、ある日、夜遅くにトイレで一階に降りたとき、リビングに父が缶ビール片手にテーブルの上の絵里の写真を見ながら飲んでいた。
その父の背中を見た小学五年生の修二は強い何とも言えない感情に心を締め付けられていた。
最終判決は、約1年後、
その時とても悔しがる両親に修二は意味が分からなかった。しかし、今の修二にはそれがわかる。いくら
しかし、先月ついに修二の進学先を決定づけるニュースを見るのだった。
あの時、妹の絵里をひき殺し救命処置も何もしなかった男が、今度は酒気帯び運転で、老夫婦の運転する軽自動車と衝突、老夫婦は二人とも即死だった。
そのニュースを見たとき、修二の頭の中はものすごい怒りと
「あの時の判決は、あの容疑者をちゃんと更生させるための
「一度裁かれても、同じようなことを繰り返すなんて・・・・・・。」
そして修二はある意思決定をした。
「司法試験に受かり、検事になって罪を正しく裁くことが出るようになりたい。」
「そして罪を償った人が繰り返し罪を犯さないような刑を求刑したい。」
と考えたのだ。
そして、修二は今までそこそこの大学で舞と約束した通りの進路コースを改めた。法学部狙いのコースに決めた。
決めたならとことんやるのが修二の決心だった。
彼は国立京〇大学の法学部を第一希望にした。
そうすれば両親への進学の学費の負担も減るだろうという気遣いもあった。
でも、どうしても舞には言い出せなった。
最近の会話といえば
「二人がもし同じ大学に行けちゃったら、スーパーラッキーだよね!」
とか、
「別々の大学でも、近くの駅まで一緒にけるような大学にお互いいけるといいね。」
とか、そんな話が中心だった。
2週間前どうしても勉強時間がほしくて、舞と約束していた、
「週に一度はどんなに忙しくても、1時間でもいいから会おうね。」
という内容を、2週間に一度にしてほしいとお願いした。
それだけ勉強に時間を費やしたかった。
案の定、舞はものすごい怒りようで、三日間は話もしてくれなかったし目線も合わせてくれなかった。
でも、舞のほうが折れてくれて、
「そんなに一生懸命なのを怒っちゃだめだよね。うん、応援する。」
と言ってくれた時は本当にありがたかった。
修二は、別に舞のことが嫌いになったわけじゃなかった。このまま付き合い続けて、もし縁があるならば結婚してもいいと思っているぐらいだった。
ただ、修二の高校生活、大学受験を控えたこの時期に、優先順位のタスクが舞と会うことが一番だったのが、京〇大学法学部に合格するに優先順位がひっくり返っただけのことだったのだ。
※
舞は、自分の部屋のベットで体育座りをし、ちょっと大きめのゴマアザラシのぬいぐるみを抱きかかえながら考え込んでいた。
もう夜の11時、寝巻に着替えていた。
「最近の修二はどうも、
「どう考えても、おかしい。」
舞も正直感じ始めていた。でも、考えて考えた結果の答えを知りたくないという感情もあった。
「何か志望大学変えたのかなあ、それならそうと言えばいいのに。彼女でしょ? 私。」
舞は不安でしょうがなかった。
ここ最近の修二は明らかに私を見ていない。
目と目があってお互い
でも、舞自身の性格はそんな
何事にも一生懸命、まっすぐ生きると決めている舞は、ぐらついている自分の心が一番許せなかった。
2週間ほど前、会う期間を1週間から2週間に延ばされた時から修二の模試に対する目つきやしぐさは明らかに前とは変わっていた。
「そんな修二だから・・・・・・ あいつがそんな態度だから・・・・・・ 修二がすべて悪いから、私の心が乱されるのよ!! つらいのよ!!」
と言ってしまえば、どんなに心が軽くなるだろう。
でも、そんなことをいう自分にもなりたくなかった。
・・・『今の修二にとって、今の私って必要?』・・・
一瞬そんな言葉がよぎった。その瞬間両目から大粒の涙がだがぼろぼろと流れ始めてきて止まらなくなった。
「あれ、おかしいな、私、どうしたんだろ?」
舞は、両手の甲で涙をぬぐう。
そして両手で拭うことができないくらい、大きな宝石の粒が天の川の流れのようになって止まらなくなったとき、抱きしめていたゴマアザラシのぬいぐるみに顔をうずめて大きな声で
もう舞の小さな心は、不安で、不安で、いっぱいだったのだ。
なぜって、修二のことが好きで、好きで、たまらないから。
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