怒り
「き、貴様ァァァァッッッ!!!」
ルドルフはその光景を目にして、咆哮した。まただ、またあの時と同じ光景。大切な人を守れず、ただ怒りに任せて攻撃しただけの、あの時と同じだ。また俺は同じ過ちを犯したのだ。そんな思いだけが頭を支配していた。
「遅かったなぁルドルフ!愛しの綾汰ちゃんはもうお人形さんになっちまったぞ!」
「ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
そう叫ぶと、手から黒く禍々しい物を放つ。それを言葉にするには奇妙で、何とも形容し難いものだった。
その"何か"はエルメの右腕に触れると、まるで初めからその右腕は無かったかのように消え去った。
「ッんだよこれ!規格外過ぎだろッッッ!」
逃げようとするが、既に囲まれており逃げ場を無くす。そんな時、中心に謎の歪みが現れる。その歪みから突如として、黒い、王冠を模したシルエットを象った、黒服の男が出てきた。その姿は長身で、とても中性的な顔をしていた。
「エルメよ、なんだそのみっともない格好は」
「あ、あぁ、クロウラーさまぁ♡」
エルメは男の事をクロウラーと呼んだ。そしてこの男も。
「お前が黒幕か、クロウラー...」
「やぁ、久々だね」
名前を呼ばれたクロウラーは、軽快な挨拶で返事をする。それはまるで旧友にあった時のような、親しみのある声だった。
「また会えて光栄だよ、わざわざその為に出てきたんだからね」
「ワシは貴様の顔などもう見たくもなかった。」
「こんな若返った姿でも分かるんだね。さすが宿敵。」
そんな御託はいいと言わんばかりに、ルドルフが攻撃を仕掛ける。それを当たったのか当たってないのかすら感じ取らせずに、堂々と話を続ける。
「おいおい、焦るなよ。まだ本番は始まってないんだ。戦いはまた今度してやるよ。今日は挨拶だけ。さぁ、かーえろっと。」
「ま、まてぇ!!」
「あ、あとこの玩具飽きたから君にあげるね。」
クロウラーはそう言うと、エルメの頭へと手を触れる。その瞬間エルメは発狂しだした。
「あらあら、今までやった事が全部頭に入ってきてる。パンクしちゃうかな。まぁいいや。僕は要らない玩具は捨てる主義なんだ。」
「お前、まさか...」
「そう、全部は僕の意思でした。最高に面白かったでしょ、この喜劇。」
ニコニコと笑顔を絶やさずに、話をするクロウラー。その笑顔には、狂気すら感じる。いや、それしか感じないだろう。
「貴様ァ!」
「おっと、だからそう慌てなさんな。君の破滅は時期来るんだから」
そう言うとまた歪みへと戻っていった。最後に今までとは違う笑みを残して。
「クソォォォォォォ!!!!!!」
広間には周りに居る衆人観衆や、辿り着いた騎士団の声など消し去り、ルドルフの悲しみだけが包んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます