「さぁ王妃様。洗面用具はおいておきますのでお好きにお入り下さい。また、何かありましたらこのベルで及び下さい」


 そう言うと褐色のエルフは外に出ていく。僕は残された洗面用具を見つめながらため息をついた。

 なんでこんな事になってしまったのだろう。昨日まではいつものように過ごして、いつものように起きただけなのに。それなのにいきなりこんな状況になるなんて。

 異世界にきて、男なのに妊娠して、男なのに何故か魔王の王妃となるなんて。いろいろ詰め込み過ぎて売れないエロ漫画みたいになってる。せめて意識がある内に魔王に犯されませんように。そう言い願いながらお風呂へとはいる。やはりどの世界でもお風呂は偉大なものだなぁと関心した。

 そんな事を考えていると扉のノックする音が聞こえてくる。


「綾汰よ。入っていいか」


「今お風呂に入ってます」


「一緒に入るか?」


「嫌です」


「恥ずかしがること無いだろう。もうワシらは夫婦じゃないか」


「とにかく嫌です」


 1日で心身疲れた僕に、魔王を相手するだけの力はもう残っていなかった。


「そうか。」


 怒りに狂って襲って来るのでは無いかと思っていたが、意外にもあっさり引いた。

 扉を少し開けて除くと、そこには寂しそうな横顔の魔王がいた。

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