君の居場所に僕はいない
たなか。
第1話
死にそうなくらいの顔のほてりと、照れくさげに笑う君。
あいにくの曇り空で織姫と彦星は今日も会えなくて、いつかの残り香をずっと辿って彷徨っている。
星は見れなかったけど手を広げれば指の隙間からこぼれ落ちる滴りが綺麗で、君の頬に絡みつく髪の毛に嫉妬した。
間違えちゃった、困ったようにそういってエクボを浮かべ君はスニーカーを脱ぐ。
海に行く予定なかったから、と
誰もいない砂浜だけど
夜は小さな声で囁く。
ーーざざぁ…ぱしゃん
静かな、波
前にもきたね、と。
そうだ、僕が君に花を渡して…それでくすぐったそうに笑って、受け取ってくれた。
渡した後はどうにも気まずくて
あえて君と距離を開けてシャクシャクと砂を進む。
月を見るふりをしてチラリと後ろを除けば
花の匂いを嗅いで顔を埋めて
くすくすと笑う君がいて。
ひらりと舞うワンピース
目をあげた瞳に僕が映ったのを見る。
ばっと素知らぬふりでまた前を向く。
ねぇ、耳が真っ赤よ。
こんな暗い中見えるわけもないのに。
花束を持った白い手がお腹に回って
背中に少し冷たくなった君がいた。
僕らはいつも不透明で、不純らしい。
ヒステリックに叫ばれた言葉が耳の奥で反響する。
産んでくれ、なんて頼んだことはない。
2人の想いが混ざり合って僕たちが出来たなら
もし違う道を歩んでくれていれば、今と同じ僕たちは別々に産まれてこれたんじゃないかと。
こんな…想いも伝えられず、お互いがわかったように笑うなんてことは…
暗い海の上には雲間から見える月の道。
テレビで3年は会えていない、と伝えられていた夜空の恋人同士のことを思った。
3年かかっても、愛しあえることが羨ましい。許されることが羨ましい。
これが最後と
君にささやかな愛を渡したこの海に、僕の想いを置いて帰ろう。
明日は晴れやかな顔で言うさ
「結婚おめでとう」
そして君はきっと寂しげに
困った顔で笑う
空は晴れても 僕たちは同じ道を歩めない
君の居場所に僕はいない たなか。 @sono-tanakano
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