茜パラドックス

らいらっくぶるー

第1話 教室

カランという音がして、ひいらぎ あかねは、ふと我に帰った。

机の上には数学の教科書とノート。ノートにはグラフが描かれ、赤や青のカラフルな線がそのグラフに沿ったり交差したり。


「茜、ペン落ちたぞ」


隣から聞き覚えのあるぶっきらぼうな声が聞こえた。幼馴染の一ノいちのせ 悠太ゆうたである。私が悠太の方を見るのを確認すると、床を指差す。そのまま視線を床に落とすと、青いペンが落ちていた。どうやら手に持っていた青いペンが床に落ちた様である。


(あれ、ここは教室?わたし、今までお家で朝ごはんを食べたあと、お茶を飲んでいたはず…。えっ?)


「ですから、変数aの取りうる値の範囲は…」


教室では数学の授業が行われており、黒板の前で数学の教師である、立花たちばな かおるが放物線を描きながら説明をしている。

周りにはクラスメイトが座っていた。一生懸命ノートを書く人、隠れてスマホを触ってる人、眠っている人と様々であった。


「茜、どうしたんだ?」


悠太は長い手を伸ばし、ペンを拾うと私の机の隅に置いた。

私はハッとして、髪に手をやる。そこにはツインテールがニョキッと自己主張をしていた。


(あ…あれっ?なぜ、わたしこんな髪型してるんだろう…。)


私はより一層慌てて、自分の身なりを確認した。白いシャツに赤いリボン。ベージュ色のスカートは膝上までありとても短い。


(何このスカート…短すぎるわ!)


「わかりましたか?では五十六ページの下の問いを、えーと… 」


私はこのとき、黒板の前で立花が、獲物をキョロキョロと探しているのも知らずに、キョロキョロ辺りを見回していた。


「柊さん、ちょっと難しいと思うけど、この問題を解いてみようか。前に出て来て」


キョトンとして自分を指差す私。


「そう。柊 茜ってこの教室であなただけでしょう? 」


立花の鋭い目は獲物を狙う虎の様であった。

私はオドオドしながら、数学の教科書を手に持って立ち上がると、恐る恐る黒板の前まで歩を進めた。

立花は真新しい白いチョークを半ば強引に私の手に取らせた。


「計算式を書くところからお願いね。五十六ページの下の問題ね」


立花が意味ありげに笑う。私は立花の笑顔の意味がわからない。それよりも、何故教室にいるのだろう?


(寝てたのかな?いやいや、さっきまでママと楽しくお喋りをしながら… )


教科書に目をやる。五十六ページ、下。そこには三次方程式の変数の範囲を求める問題があった。


(この問題ね)


黒板にチョークで、まず問題を書いた。しばらく眺めた後スラスラと計算式を書き出した。流れるチョークの軌跡。それは一瞬も止まる事なく問題を解き終えた。

三次方程式の図解入り。美しい数式が秩序正しく並んでいた。

暫くの静寂。

驚きの表情の立花が立っている。


(え!なになに?間違ってるのかしら…)


不安を覚えた矢先、教室中からどよめきが起こった。


「えっ、何々?」


私は教室中から湧き起こったどよめきに戸惑い教室中を見回した。


「柊さん!凄いじゃない!この問題引っ掛けも有るから結構難しいのよ。先生ビックリしたわ」


教室中から歓声が上がる。何人かは拍手さえしている。


(え、何々?何が起こったの?問題を解いただけ…)


ざわめく教室を呆然と眺めるしかなかった。

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