第44話 女王の日々(終話)
「ど、どういうことですか!?」
無礼過ぎる事を承知で、私は国王様に詰め寄った。
「言葉通りだ。お前さんの親父さん経由で、国王就任を快諾したとある。すでに、国中が動き始めた。もう、『やっぱ、やめた』はなしだぜ?」
ドスの声でそう言われると、私は何も言えなかった。
「異例の早さだが、戴冠式は二週間に組んである。忙しくなるぞ。覚悟してくれ」
ほとんど頭の中真っ白のまま、私はマリーに引っ張られるようにして、部屋に戻ってきた。
「ね、ねえ、どどどど、どうしよう。と、とりあえず、ば、バハムート?」
「だから、そんな駆けつけ三杯みたいに、バハムートを呼ばないの!!」
おう、落ち着け。落ち着け私……。
「ふぅ、取りあえず……。マリー、戴冠式ってなにやるの?」
こうなりゃヤケクソ。何でもこいだ。私はできる限りのリサーチを開始した。
それにしても、うちのクソ親父。一生恨むからな!!
なんてな事を言っていると、侍女軍団が突入してきて衣装の採寸をしたりなんなりかんなりと、それはもう大騒ぎの毎日を送る事となった。何でも女性国王、すなわち女王の誕生は数百年ぶり。異種族は当然だが初だ。二週間などあっという間だった。
本来は、国王として即位してから、それを示すために行われるのがこの儀式。しかし、今回は急ぎで行ったため、戴冠式と同時に即位という形になった。
なぜここまで急いだのかというと、アラファド国王様の話しでは隣国の使者が訪問してくる予定があるのだが、向こうでやんちゃしすぎて目を付けられているので、色々ヤバいという政治的な(?)理由だった。子供か!!
まあ、なにはともあれ、貴族たちの見守る中、現国王のアラファド氏から私に王冠が被せられ、これで私は正式にこの国の女王となったのだった。
結婚式と同じパターンでバルコニーに出ると……あれまぁ、結婚式より多いかもしれない。凄い数の皆様が集まって歓声を上げていた。
「よかったじゃん、歓迎されて」
「アホ、かえってプレッシャーだよ。寝込みそう……」
笑顔でマリーとそんな会話をしながらがら、私は手を振り続けた。
「ところで、国王ってなにするの?」
「い、今さらかい!!」
バルコニー直下の城前広場には仮設のステージが設けられ、集まってくれた人たちが好き勝手遊べるように手配しておいた。
時刻は夜。熱気は最高潮という中を、堂々と歩く私がいた。護衛としてアラファド氏とマリー、そして念押しでアンにも登場してもらっている。
「えっ、女王様!?」
「マジかよ、おい」
「肝座ってるなぁ」
国民の皆様の反応は大体こうだ。
向かう先はステージ。ちょうど、人気のバンドが暴れ回り、曲の合間だった。
迷うことなくステージに上がった瞬間、バンドグループ全員がギョッとした顔になった「じょ、女王様?」
「悪いわねぇ。疼いちゃってさ。混ぜてもらっていい?」
「は、はい。それはもう喜んで!!」
よし、乗ってきた。
「嗜む程度に楽器も出来るんだけど、ヴォーカルがいいかな?」
息をつき、そして……。
「野郎ども行くよ!!」
演奏が始まり、まさかのコラボが始まった。悪いが、これでも歌は上手いと自負している。このぶっ飛んだ現象に、最初はポカンとしていた観客だったが、結局乗った。何でも乗らなきゃ損だ。お祭りなのだから。
「くっそ、俺も混ざりてぇ……」
そんなアラファド氏の声が聞こえたような気もしたが、無視してひたすら本来のヴォカルの兄ちゃんと一緒になって熱唱する私。ちなみに、バリバリのロックだ。しかも。反体制的歌詞なので笑える。
一曲だけでやめておこうと思ったのだが、結局十八曲全て歌いきり、大歓声の中兄ちゃんとハイタッチしてからステージを下りると、皆の顔には「やれやれ」と書いてあった。
「スッキリした?」
マリーが聞いてきた。
「まあ、久々に歌など嗜んだお陰でね」
「おい、あっち行こうぜ。俺、リンゴ飴好きなんだ」
アラファド氏が指差したのは屋台村。
そ、その顔でリンゴ飴かい!!
結局なんだかんだで、オールを決め込んだ私たち一行だった。
明日からは、いよいよ女王としての生活が始まる。今夜くらい、羽根を伸ばしたっていいじゃないの。
三ヶ月後……
「ここに全てまとめてあります。あとは目を通して頂いてサインを……」
「おう、こっちもだ。至急頼む!!」
マリーとアラファドが、ガンガン容赦なく書類をぶち込んでくる。
ふん、エルフ、ナメんなよ!!
ズバババババっと処理して、『決裁済み』『再提出』『却下』の箱に投げ込んでいく。
『あんたも大変ねぇ』
『ちょっと待って、今忙しい!!』
まあ、昼間はこんな感じである。私は書類決裁マシーンと化していた。
「おーい、次だ次!!」
「あいよー!!」
そして、静かになった夜。
機密書類がある女王私室にマリーを通すわけにはいかないので、すぐ近くにある彼女
の部屋に行くのが通例だ。
「はい、お疲れさん」
部屋に入ると、私はマリーに声をかけた。
「あー、疲れた。なんなの今日の書類の量。腰が……」
なぜ、チミの方が疲れているのかね?
まあ、いいけど、なにか釈然としないようなするような。
「まだ楽よ、これに海外からの使者や親書なんて来たら、ちょっとしたパニックね」
ほとんど秒単位にスケジュールが組まれ、もはやパンパンである。
しかし、可能な時間はマリーと過ごす。これは、私が自分に化したルールだ。
「さてと……。いつもの癒やしの時間、始めようか?」
私の言葉に、マリーは小さく笑みを浮かべたのだった。
『コラー、たまには私も癒やさせろ。侍女の育成で疲れてるだぞ!!』
『うるさい!!』
完
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