ep.18 祭で何を得られるか?

「春樹くん。学園祭に参加する予定は」

「ありません」

「でしょうね。屋台の食べ物おごるっつったら」

「屋台よりは、どっかのレストランとかカフェとか居酒屋の方がいいです。あ、この間良い店見つけたんですよ。ここから一駅、乗らないといけないんですけど……」


 いやいや、あのね。


 春樹くんを学園祭に誘おうと思って、食べ物で釣ろうとしたけれど、呆気なく断られた。


「参加したくない理由があるわけ?」

「だってあんなの、子どもだましじゃないですか」


 二年生までその「子どもだまし」に一生懸命になってたあたしとは。


「もう。そんなこと、人前で絶対に言っちゃダメだからね? この行事のために必死な人だっているんだから」

「子どもだまし……は、言い過ぎでしたね。ごめんなさい。でも、こういうのってやりたい人がやって、興味のないやつはそっとしておくのが丸いのでは?」


 ぐうの音も出ない。そもそも、今や無サークル状態の春樹くんにとって、学園祭なんて関係のないものなのだ。


 こうなったら、「口約束」を持ち出すしかない。


「この間さ、『一緒に大学生活を送ってください、俺と』って言ってくれたじゃん。あたしはあたしで、最後のキラキラキャンパスライフを送りたいわけよ」

「優里乃さん、まだそんなこと言ってるんですか」

「っ……」


 ぴしゃりと言い放つ春樹くんから、目をそらす。――嬉しかったのに。俺と一緒に、って言葉。


「そりゃ、一緒に大学生活送りたい、とは言いましたよ。ただ、いくらなんでも四女が『キラキラ』は痛いっすよ」

「あ、そっちね」


 それは否めないな。なんだかちょっとだけホッとする。あの言葉は、別に嘘や気まぐれじゃなかったんだ、と。


「……ああ、もう、分かりましたよ! 行きましょう、学園祭」

「マジ? やったね」

「優里乃さんは、何か強い思い入れでもあるんですか? 学園祭に」

「あたしは――」


 正直、「思い入れ」なんてものは、もう無い。ただ、思い出したかったのだ。二年前までの自分の気持ち。


「『思い出』、作りましょっか」


 春樹くんが少し困ったように微笑んだ。




 そして、学園祭当日。――来なきゃよかった。自分で誘っておいて、そう思った。


「……だから言ったんですよ! わざわざこんな混んでるところに出向く必要なかったって」


 春樹くんも、文句たらたら。ただでさえ人の多いキャンパスが、ごった返している。どこの屋台も並ぶし、列は亀……いや、カタツムリのようなペースでしか進まないし。


「俺、お腹すきました。だって今日、焼き鳥三本しか食ってないんですよ」

「……私も鯛焼きひとつだけ」


 春樹くんが口を尖らせる。この子、食べ物の事になると結構子どもみたいになる。あとで、なんか美味しいもの食べに連れていってあげよう……


 その時だった。


「コール・アーソナ、定期公演会13:00からです! よろしくお願い致します」


 胸の奥がじゃり、と音を立てた。

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