ep.7 崎田くんとの遭遇@購買部書籍部



 キラキラとかもう、わっかんねえな。「キラキラキャンパスライフ計画」が一日で詰んだあたしは、大学の書籍部に来ていた。学術書は15%、その他の本も10%オフで買えちゃう魔法の本屋さん。


 今まで買ったこともない「ファッション誌」とかいうものを購入しようとしております。




「……いや、別にファッションはどうでもいいんだけどさ」


 一般的な女子大生並にはおしゃれしていると思う。生活がおしゃれじゃないだけで。何気なく訪れたサークルの部室で、ひよりちゃんに「キラキラキャンパスライフ」についてアドバイスを求めたら、「ファッション誌を買え」というアリガタイお言葉を戴いたのだ。


「ってかあんたにファッション誌買えって言われる日が来るとは思わんかったわ!」

「どーゆー意味よ」


 今日も今日とて、「どこそこの国のほにゃららってブランド」で親に買ってもらったとかいうド派手な幾何学模様のワンピを来てきた彼女に噛みつく。ファッションセンスがねえのはどっちだ!


「だってさ、大体載ってるじゃない。恋愛の事とか、学校生活あれこれとか。知らない?」


 知らない知らない。恋愛のコーナーは有名だけど、学校生活あれこれは知らなかった。


「まあ、本当にあんな感じのキャンパスライフを送っているJDが居るんだとしたら、ぜひとも留年して欲しいけどねー」


 ひよりちゃんの呪いに相づちを打ちつつ、あたしは雑誌の購入を検討した。




 そして、書籍部なう。――どの雑誌を買ったらいいか分かりません。


 そもそもJD向け雑誌ってどれだっけ。書籍部の雑誌は全部紐でくくってあるから中身を確認することができない。なんだろ、北川景子とか憧れるし北川景子が表紙のやつ買えば良いかなーなんて思ったけれど、たぶんJD向けじゃないのよね。乃木坂46とか出てればいい?二種類くらいあるけれど。いっそ二冊買うか。ひゃー、まいやん可愛い。正統派美人が結構好み。


「これお願いします」


 あたしは二冊の雑誌をカウンターに出す。合計1200円そこそこ。まあ、バイトである程度稼いでいる身としては、OKな範囲の出費。


「……なんというか統一性がないですね」

「ん?」


 なんでレジの人が統一性とか言い出すの?あたしは顔をあげる。


「優里乃さん、ただの乃木坂ファンですか」

「おお……崎田くん……」


 なんでお前がここにおるんじゃ。


「わざとこっちのレジに来たのかと思いました」

「いや、何にも考えてなかった」


 校内バイトもしてるんだっけ、この人。他には誰も並んでいないことを幸いに、あたしは崎田くんとお喋りを続けた。


「今日は?講義サボり?」

「必修じゃないんで」


 サボりか。


「無理すんなよー」

「別に無理してないですー」


 まあ、してるだろ。だって、講義出られないほどバイトしてるんだよ?


「留年すんなよー」


 留年、ダメ絶対。余裕ぶっこいて笑ってる場合じゃないぞ。


「それだけは無いように頑張る所存です」

「偉い。じゃ、こんなところで」


 バイトの邪魔をしてはいけない。あたしは二冊の雑誌を手に、レジを離れるのだった。「統一性がない」ってなんだろ。あたしは静かに首を傾げながら書籍部を後にした。




 二冊の雑誌、確かに統一性ないわ。トマト味のプリッツをかじりながら(その日は11月11日だったりする)、ゼミ室のソファに寝っ転がってそれらを眺める。確かに、一冊は所謂「キラキラ女子大生」向けのやつ。モテとかそういうのをしっかり意識しているの、赤文字系って言うんだっけ? でもタイトルが赤くないから違うのかも。よくわかんない。モデルさんはやっぱり可愛いし、結構心惹かれる洋服もいっぱい有ったけれど、とりあえず今はそういうのはどうでもいい。……あ、このグレンチェックのフレアスカート買おっと。


 後ろの方のページを捲った。――男女のについての特集。そっと雑誌を閉じた。なんかもう、そういうのはまっぴら。


 そして、もう一冊の雑誌を広げる。ショッキングピンクのビスチェ、ハデハデなフリルのついたロングスカート。ファーのついた紺のベルトのサンダル(注:もうすぐ冬だ)に白の靴下をあわせている。メイクだってチョコレート色リップ、異様なほどに白い肌、ウサギのように赤いアイシャドウ……


 なんでなのか全くわからないけれど、その時のあたしはそれを見て「カッコいい」って思ったんだ、なんか。モテとか○○ウケ抜群とか、そういうの全部無視している、そういうのが。


 媚びないのって絶対にカッコいい。――あたしは、4女。誰かに頼って生きていくような身分じゃないことくらい、そろそろ理解しているつもり。


 気づいたらあたしは荷物をまとめ、渋谷109へ向かうべく最寄り駅への100メートルダッシュをきめていた。

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