こちらゲスコン! ~夢と魔法の王国より~
なつの真波
第一話:正しい舞踏会の作りかた
プロローグ
人生二十五年も生きていると、まぁ、大概の「初めて」は経験し終えていたりはする。
初ちゅーも初なんちゃらも、初めての挫折も成功も、まぁ経験済みでしょう。
とはいえ、これはさすがに未経験だった。
わたしは今、おっさんに泣きつかれている。
生まれて初めて、おっさんに、泣きつかれている。
涙と鼻水で顔をデロデロにさせた丸いおっさんが、わたしの前でひざまずいている。違う。「そういう」プレイとかする趣味はない。そうじゃない。
じゃあ何か、と言われると分からない。まったくもって分からなかった。
わたしはどうやら、絨毯が敷き詰められた床に座り込んでいる状況らしい。絨毯は毛足が長く、床についている手が沈み込む。生まれたての子猫の毛のような繊細さと温かさがあるので、すごく上品な絨毯だということは分かる。あと分かるものと言えば、目から入ってくる情報だけだ――目の前のおっさんは、なんか大仰なスライムみたいな帽子をかぶっている、とか。輪郭も鼻も体型もまるくて、そのくせパツンパツンの衣装がやたら絢爛だなぁ、とか。天井高いなぁ、とか。壁もなんか豪華だなぁとか。そういう程度の情報だ。
残念なことに、大事なことが分からない。
ここがどこだか分からない。いつなのかも、正直頭が回ってない。
何が起きているのかも、分からない。
自分のこと……は、分かる。ありがたいことにそこは分かっている。
平澤ありす、二十五歳。契約社員として働いている普通の社会人だ。
現状が呑み込めないまま、いま、どこかよく分からないここにいる。
「頼む、頼む、どうかわしに力を貸しとくれぇ」
震える情けない声で、おっさんが何度目かの台詞を吐く。
さて。
――どうしようか、この状況?
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