腐女子令嬢でもリア充になれますか!?
櫻華
第1話 目指せ!リア充!!
憧れの王宮で、煌びやかなドレスに身を包み素敵な殿方にエスコートされる―――。
一歩踏み入れた会場で流れる音楽に身を乗せ、優雅に舞い踊る色とりどりの淑女達―――。
年頃の貴族の令嬢にのみ許される、人生で一番の晴れ舞台『社交界デビュー』。
それは、このレジェンディア王国でも例外ではなかった。
レジェンディア王国では15~18歳位までの令嬢がデビューの対象となっており、毎年社交シーズン初の夜会として行われている。
王宮で行われるという事もあり、デビューを果たしていない少女達にとっては憧れの夜会でもあるのだ。
それは、王国に仕えるサンテルージュ侯爵家の令嬢にとっても例外ではなかった。
ただ少し、目的がずれているという事に関して以外は…。
*****************************************
「クリスティーナ様!いい加減になさいませ!!!」
社交界前日の昼下がり、サンテルージュ侯爵家の屋敷に女性の怒鳴り声が響いた。
怒鳴った彼女の目の前には、自室の窓の近くに設置されたソファーに寝そべりながら本を読んでいる、明らかに淑女とは言い難い少女がいた。
「テレサ、そんなに怒鳴らないで。今とぉーーーーーーっても良いところなのっ!!!」
クリスティーナと呼ばれた少女は、先程怒鳴ったテレサと呼ばれた侍女には見向きもせず、目の前の本を夢中で読み進めていた。
「クリスティーナ様、デビューは明日なのですよ?他にデビューする貴族の令嬢方はそれこそ明日着て行くドレスや装飾品を選んだりされているのですよ?」
テレサはクリスティーナの傍まで近寄りながら、本に夢中のクリスティーナに訴える。
しかし、クリスティーナは反応を示すことなく本から視線を逸らそうともしない。
業を煮やしたテレサはクリスティーナが読んでいた本を取り上げ「聞いているのですか!!?」とクリスティーナに詰め寄る。
「ちょっと!今良いところって言ったじゃない」
クリスティーナは取られた本を取り返そうとソファーから起き上がるが、テレサは本をさっと自身の後ろに隠すことで渡すのを拒む。
「先ほども申し上げましたが、明日はクリスティーナ様にとってはとても大切な日なのです。
「大丈夫よ、明日の事はアレクお兄様達がが準備するって仰ってたもの。お兄様達は王宮勤めもされてるし、きっと
「にっこりと笑うとテレサ向かい手を出す。
しかし、テレサは本を渡そうとはせずジトっとした視線をクリスティーナに向ける。
「何よぅ…そんな目で見ても何も出ないわよ?」
「アレキサンドリア様達が用意するというところが一番の問題なのです。失礼ながらあの方たちがまともな準備をされるとは到底思えません」
「でも、何も知らない私が的外れな準備をするよりはお兄様方に任せた方が良いと思うのよ?現に、3か月前にはオルフェお兄様から注文を受けたっていう仕立て屋が採寸をしに来たでしょ?あの仕立て屋は確か有名なところだったと思うわ?この私が聞いた事ある名前の仕立て屋だったもの」
クリスティーナは「うーん」と仕立て屋の名前を思い出そうと考え込む。
「そうですわ。あの仕立て屋は国内でも特に流行の発信地とも言われているマダムシシリーのお店です」
「そうそう!そんな名前よね?」
思い出したとばかりにテレサに笑顔を向ける。
「今日も僕のクリスは可愛いね」
突然ここにはいない筈の人物の声が聞こえた為、二人が扉の方に視線を向けると、そこにはブラウンの瞳に優しい色を宿した男性が立っていた。
「オルフェお兄様!」
そう呼ばれた彼はクリスティーナの座っていたソファーまで歩み寄る。
途中、テレサが後ろ手に隠していた本を取り上げると、それをそのままクリスティーナに渡し彼女の隣に腰掛ける。
「それで、マダムシシリーがどうかした?」
オルフェがにっこりと微笑みながらクリスティーナに尋ねる。
「お兄様が先日私のドレスを頼んでくれたお店の名前を思い出していたの」
「あぁ、そのドレスなら出来上がったと報告が来てね、待ちきれなくて受け取って帰ったところだ」
そう言うとオルフェは自身が入ってきた扉の方に視線を向ける。
クリスティーナも同じ様に視線を向けると、そこには大きなドレスの入った箱を抱えた侍女が立っていた。
「僕に一番にドレスを着た姿を見せてくれる?明日のクリスのエスコートはアレク兄さんに取られてしまったからね」
「勿論よ!だってオルフェお兄様が選んでくれたドレスだもの」
「ちょっとまっててね」というと、テレサとドレスを運んだ侍女を連れ、ドレスに着替えるべく寝室へ行く。
「…クリスティーナ様、これ本気で着るおつもりですか…?」
箱からドレスを取り出したテレサは顔を引きつらせながら問いかける。
「勿論よ?お兄様が用意してくれたドレスだもの」
「しかし…」
ドレスを運んでくれた侍女もテレサと同意見なようで、顔を引きつらせている。
(何がダメなのかしら?)
しぶしぶという様に着付けてくれるテレサともう一人の侍女を見ながらクリスティーナは小首をかしげる。
ドレスはクリスティーナの瞳と同じエメラルドグリーンを基調に配色されており、袖口と胸元には白いレースで飾りが付けられている。そして、胸元と腰、スカート部分にはリボンがふんだんに取り付けられており、子供がこの形のドレスを着たら可愛いのであろうと予測される形のドレスであった。
ドレスに着替え終わりオルフェの待っている部屋へ急ぐと、そこにはもう一人の兄がオルフェと一緒に待っていた。
「アレクお兄様!?」
「着替え終わりましたか、クリス」
「どうしたの?アレクお兄様まで。まだ公務のお時間では…」
「明日はクリスの社交界デビューですよ?そんなに大事な日を前にこの私がのんびりと仕事をしているわけにはいきませんからね。さっさと今日の分の公務を終わらせて来たところです」
「でも、お兄様は重要なお役目だと聞いたわ…?」
「良いんですよ、クリスの事ですから父上だって煩く言わないでしょう」
アレクと呼ばれた兄は眼鏡をくいっと指で押し上げるとにっこりとクリスに微笑む。
(アレクお兄様はずるいわ…)
長兄がこうして微笑む時は大抵『詮索無用』という事だ。
本来なら夕刻に公務から帰るこの兄達は、クリスティーナの3人の兄の内の長兄と次兄で、二人とも外務部に勤めている。
長兄のアレキサンドリアは外務副大臣である父の補佐官をしており、サンテルージュ侯爵家の正式な跡取りである。クリスティーナや次兄のオルフェンシアと違い、髪は母親と同じ綺麗なブロンドで少し長めに伸ばしているその髪を目の色と同じエメラルドグリーンのリボンでいつも纏めている。
次兄のオルフェンシアはクリスティーナと同じミルクティー色のフワフワとした髪で、短めに整えられておりいつも笑顔を絶やさないが、怒っている時でさえ笑顔なので正直クリスティーナの中では一番怒らせたくない兄でもある。幼い頃の恐怖は今でも忘れた事はない……。
オルフェンシアはアレキサンドリアと同じく外務部で公務を行っているが、その類稀なる交渉術をかわれ、他国との外交を主に行っており、多い時には1年の大半を諸外国で過ごす事がある為こうしてゆっくりと数日を家で過ごす事は珍しい位だ。
「それにしてもマダムは流石だね、こんなにも可愛らしく僕のクリスを飾るドレスに仕立ててくれるなんて。次の夜会でもお願いしなくてはね」
オルフェンシアはとても満足な様でクリスティーナに横や後ろを向く様に指示を出す為、それに従いくるくるとその場で回って見せる。
「ああ、そうだな。あとクリスそれだけでは不十分だろうからこれも着けて行くと良い」
アレキサンドリアはクリスへ小箱を手渡す。
クリスティーナはそれを受け取ると中を見るべく開けた。
「あら?これは眼鏡…よね?」
なぜそこに入っているのか意味が分からず、思わず傍に控えていたテレサに箱の中身を見せる。
「……眼鏡でございますね?」
「明日はそれも着けて行くと良い。きっと役に立つ」
「でもアレクお兄様、私は目は悪くないわ?」
「それは度の入っていない眼鏡だからクリスが着けても見える様になっている。だから必ず着けて行きなさい」
「よく分からないけど…、お兄様がそう言うならそうするわ」
そう答えると二人の兄は満足そうに微笑み、暫くクリスティーナと会話を楽しむと部屋を後にした。
兄達が退室したのち、再び普段着に着替えなおしたクリスティーナは元のソファーにゴロリと横になると、兄達が来る直前まで読んでいた本の続きを読むべくページをめくる。
「クリスティーナ様、やはりあのドレスは…」
テレサがそばで控えながら主人であるクリスティーナに声をかける。
「私の瞳の色に合わせて下さるなんて流石オルフェお兄様よね。見た目が平凡以下の私にでも似合う様に考えて下さったに違いないわ」
クリスティーナは本から目を離さずに答える。
「クリスティーナ様は決して平凡以下ではございません!侯爵家の誇る素敵なお嬢様です!!!」
それまで冷静だったテレサが必死に訴えるため思わず体を起こし後ずさりそうになる。
実際にはソファーの上なので後ずされはしないのだが…。
「お嬢様は普通のご令嬢が興味を持つことに関して鈍感すぎます!お嬢様は身内贔屓なのを別にしても、お美しいのですよ!?」
話しながら次第に目に涙を浮かべ出したテレサに驚き、クリスティーナは自分の隣にテレサを座らせ背中をさする。
「テレサはそう言ってくれるけど、私本当に自分が美しいだなんて思った事ないのよ?お母様はとてもお美しいと思うけれど、私なんてお母様と比べる程可愛くもないと思うのよ?」
「そんな事ございません!そもそも、クリスティーナ様はもっと他の家のご令嬢と交流をもつべきだったのです!そもそもこんな…」
「テレサ…?」
急にわなわなと震えだしたテレサの顔をのぞき込むと、急にキッと睨まれクリスティーナは「うっ…」と言葉を詰まらせる。
「クリスティーナ様、今日という今日は言わせてください!何だってあの様な本ばかり好んで読まれるのですか!!?普通のご令嬢でしたら素敵な殿方との恋物語や詩集を読まれるものです!」
「な…!?私が読んでいるのだって十分恋物語だわ!!!」
「恋物語といっても登場人物が問題じゃないですか!」
「素敵でしょう!!!王子様や公爵様みたいな素敵な殿方ばかりだわ!」
「その、『殿方ばかり』というのが問題なんじゃないですか!!!どこのご令嬢に男性同士の恋物語を好む令嬢がいるっていうんですかっ!!!」
「ここにいるわ!!!」
クリスティーナに堂々と言われてしまい今度はテレサの方が言葉に詰まる。
「だって、どの物語も素敵な方ばかりが出てるのよ!?この物語だってほら、見て?こんなにも綺麗な侯爵様と子爵様が!」
クリスティーナは読んでいた本の挿絵をテレサに向けて見せる。
そこには麗しい見た目の男性二人が半裸でもつれる挿絵が描かれており、思わずテレサは明後日の方向に視線を逸らし「こっちに向けないでくださいっ!!!」と顔を赤らめながら訴える。
「素敵でしょう、このお二人はデビュタントで子爵様をお見染めになった侯爵様が愛を告げられ、とうとう結ばれるってところなのっ!」
「クリスティーナ様以外にどこを探したらそれを好むご令嬢がいらっしゃるって言うんですかーーーっ!?」
視線は逸らしたままテレサは訴える。
「あら、それは探してみないとわからないわ?だから明日の社交界デビューが楽しみなんじゃない!以前オルフェお兄様が、外国では私生活が充実している事を『リア充』と言うのだと教えて頂いたの!社交界デビューすれば様々な方と出会う事が出来るのだから、もしかしたら同じ様に好きな方を見つける事が出来るかもしれないわ?」
「そうすれば私だってリア充の仲間入りね☆」と可愛く笑う、どこか間違った楽しみ方の主人を見ながらテレサはがっくりと項垂れる。
「テレサ、明日は良い日になるといいわね」
そう言うとクリスティーナは読みかけの本に再び視線を戻し、隣でテレサはこっそりとため息を吐くのだった。
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