第13話
目を開けたら、真っ暗闇だった。
目を閉じても、真っ暗闇だった。
背中が固いことから、自分は仰向けになっているのだと気がついた。
起き上がろうと顔を横に向けると、遠くに明かりが見えた。どうやら視力を失ったわけではないらしい。
このひやりとした空間には覚えがある。風が吹かない、水の存在を感じるここは、神里の鍾乳洞だ。なぜ、こんなところにいるのか。ヒミが目を閉じる直前の記憶は、黒蝶だ。黒い蝶が目の前に迫ったと思ったら何をする間もなく、この状態だったのだ。
座り込んだまま、相変わらず色が識別できない目を凝らして光の方を見ていると、揺れながら近づいてくるようだ。
ああ、光が揺れていたのは炎だったから。近づいてきたのは、炎を手にしたアオイが来たからだ。
「ヒミ!」
アオイの声と姿をみとめたヒミはその名を呼ぼうとしたが、後ろから現れた少し小柄な人影に、音を飲み込んだ。
「ヒミちゃん、大丈夫?ずっとここにいたの?皆探してたんだよ?」
心配気に眉を下げたハナに、どう答えたら良いか考えあぐねていると、怒気を含んだアオイの声が刺さった。
「皆に心配かけて何してたんだよ。こんなところでいじけてたのか。」
何をどう説明したら良いかわからないまま、黙っているヒミにアオイは追い打ちをかけた。
「今度は声までどこかに落としてきたんじゃないだろうな?」
『そんなことはない』と応えようとして、ヒミは絶句した。
アオイの言う通り、声が、出なかった。
今度は二人が驚く番だった。
「ヒミちゃん?本当に声出ないの?」
「どうなってんだよお前は…。とにかく、戻るぞ。」
里に帰る道すがら、ハナはヒミの手をずっと握っていた。温かい手が触れている感覚だけがヒミの意識をつないでいた。
宮司の元へ連れられて来たヒミは、しばらく休むように厳しく諭された。
その様子を見ていたトキワは、肩を落として歩くヒミを追いかけた。
「ヒミ、何か言いたいことはないか?」
しばらく見つめあっていたが、トキワが頷いた。
「わかった。」
何がわかったのかとヒミが訝しんでいると、トキワは満足気に言い放った。
「お前の言いたいこと。ちゃんと読めた。いま『何がわかったんだ』って思っただろ?」
「だから、声出なくても大丈夫だぞ、ヒミ。俺が全部聞いてやるから。」
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