偽りの感情



あなたと働くようになってあなたの事をもっと知ることができた。

好きなアーティスト 趣味 家族の話

特に意味のない会話もあなたとするだけでとても楽しく思えた。

単純な私はあなたにおすすめされたアーティストに熱中したり、あなたの好きなものを買ってきたりした。

そのためカフェのスタッフたちに忠犬ハチ公にちなんで「ハチ」と呼ばれるようになった。


「今日はひーちゃん居ないからハチも寂しいねー」

「別に居ても居なくてもテンションは同じですよ。ひゅうさんあんまり構ってくれないですし」

「私らからしたらこの店で一番君が相手してもらえてるように見えるけどね」


そんなことを言われても、あまり実感のない私は少し疑問に思いながら顔を少ししかめた。


「そういえば雪ちゃんはなんでひーちゃんの事気に入ってるの?」


一瞬、鼓動が止まった気がした。

自分でも未だに恋か憧れかわかっていないのだ。


「なんでですかねぇ…」


少し悩んで、

「なんかあんまり周りにいない雰囲気の人だし、私よりも態度も性格も大人なのに人を疑うことを知らなそうな所ですかね。自分でもよくわかってないんですけど」

と、あまり考えていなかったため苦笑しながら答えた。


「私本気で雪ちゃんはひーちゃんのこと好きなんかなって思ってたよ。」


ひやりとさせられる言葉を聞かされて咄嗟に

「恋だったらめっちゃやばい奴じゃないですか。好きだから同じ職場に来るとか。」

笑いながらはなし、

「元々忠犬タイプなんで気に入った人の為になんかしたいって思うんですよ」

と続けた。


主婦は

「雪ちゃんはハチ公の生まれ変わりかもしれんねぇ」

と冗談半分納得した様子で頷いた。

「それだと、とても光栄ですね。でもハチ公はもっとおとなしく真面目に飼い主を待ってたと思いますよ」

笑いながら返事をした。




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