いくら美女でもこれは引く

ここみさん

第1話 嫌な予感しかしない部活

「ファッション部……?」

様々な文化部の部室が立ち並ぶ校舎、通称部室棟、そこの一部屋にでかでかとそんな張り紙がされてあった

「ちょうどこの下の階に被服研究部なんてものがあったけど、それとはまた別なのかな」

廊下の窓からは、傾きかけた日の光が差し込んでいる

高校入学から約二週間がたち、親しくなったクラスメートたちが部活動に励む放課後、僕は密かに危機感を覚え、この部室棟に足を運んだ

僕の性能上、運動部は論外だし、がっつりやっているような吹奏楽部や美術部と言った、才能を求められるような文化部も遠慮したい

「となると、結構限られるんだよねぇ」

どこかに、僕の青春をかけるにふさわしい部活動はないのかねぇ

そんな風に、若干偉そうに部活動見学をしていた僕が、たどり着いた一室

「なーんか、意識高い系(笑)がいそうな部活だな」

別に興味があるわけではない、なんとなく似たような名前なのに別の存在って言うのが気になっただけだ。剣道部と居合道部って何が違うんだろって気になる感覚に近い

トントン、と控えめに扉をたたいた

中から反応はない

「今日はやってないのかな、それとも活動場所がここではないのか」

僕は静かに扉を開けた

もしいないのだったら、適当に見学しようかな

「フンフン、フンフフーン」

一人の女子生徒が、鼻歌交じりにくねくねと変な動きで歩いていた。フランスだっけかイタリアだっけか、あのモデルさんたちがくねくねと歩きながら、服をお披露目するあれ、あれを彷彿とさせる。そうだパリコレだ、パリだからフランスか

なるほど、ノックが聞こえなかったのはイヤホンをしていたからか。くねくねに合わせてイヤホンのコードが揺れている

「フンフ……」

「ど、どうも」

僕が覗いていたことに気が付き、動きが一瞬止まる。ノリノリでモデルごっこやっていたのだ、僕だったら恥ずかしさのあまりのた打ち回ってしまう

しかし、その女子生徒はそのままモデル歩きをつづけ、僕に背中を向けた

そして勢いよく振り返り

「ようこそファッション部へ」

僕に人差し指を突きつけた。メンタル強いっすね

「私は二年の片倉琴音です」

「あ、どうも、僕は一年の若松和樹っていいます」

「和樹君ですね、ささ、どうぞどうぞお掛けになってください」

どこにでもあるようなパイプ椅子を勧められた

勧められるがまま椅子に座り、少し緊張した面持ちで室内を見渡した

以前訪れた被服研究部には、ミシンや布など服を作る材料や道具がたくさんあったが、ここにはそういったものはない、強いて言うならファッション雑誌や服が入っているであろう紙袋がロッカーの上においてあるくらいか

「和樹君は、ファッションに興味があるんですか」

「いや、まぁ高校生なので、多少のお洒落はしたいと思っていますけど、申し訳ないですが、部活に入るほど興味があるわけではないですね」

「えー、じゃあなんでここに来たんですか、私の痴態まで覗いて」

痴態って思っててあの対応か、メンタルパネェ

「以前この下の階にある被服研究部を見学させていただいたので、似たような名前であるファッション部はどんなものなのかなって思って」

「なるほどなるほど、つまりまだ入部してくれる見込みはあると」

どう捉えたらそうなるんだよ

「ファッション部はですね、ファッションを研究する部活です」

「ファッションの研究?雑誌とか読んだりする感じですか」

そんなもの、わざわざ部活動にしなくても

「確かに雑誌も読みますが、一番の活動は実際に来てみて、改善点を探して、理想的なファッションを生み出すんです」

わかるようなわからないような

「それ、被服研究部ではだめだったんですか」

「駄目だったんですね。私がやりたいのは、服を作るのではなく、服を着こなしたいんです」

「…何が違うんですか?」

「なんて言えばいいんでしょう、私は着る専門と言いますか、作るのも吝かではないのですが、言われたとおりに作るのは好まないと言いますか」

言い訳みたいな言葉がぽろぽろ零れて

「バッティングセンターで遊ぶのが好きな人がみんな、野球部に入ると言ったら、そうでもない、みたいな感じですね」

要するに、着こなしの研究だけしたいってことか

「なるほど、よくわかりました。本日はありがとうございました、大切なお時間を取らせてしまい申し訳ありません」

知りたいことも知れて、これ以上ここにいる必要もないと判断した僕は、椅子から立ち上がり、部活動見学終了の一文を口にした

「ちょっと待ってください、折角見学にいらしたのですから、ちょっと体験していってくださいよ」

「いえ、これ以上部活の活動時間を取るわけにもいかないので、僕はこれでお暇させていただきます」

「いえいえ、そんなの気にしないでください」

「いえいえいえ、さっきも言いましたが、申し訳ありませんが部活動でやるほど、ファッションには興味がないので」

「いえいえいえいえ、もしかしたら、体験しているうちに興味がわくかもしれませんよ」

「いえいえいえいえいえ…」

「いえいえいえいえいえいえ…」

「……」

「……」

「入ってよぉぉぉ、この部活もう私しかいないの、これじゃあ廃部になっちゃうんですよぉぉ」

「知らないですよ、この部活に魅力がなかったということで諦めてください」

「何が不満なの、先輩は私しかいないから上下関係は緩いよ、それに私って美人だし、美人の先輩と放課後楽しく過ごそうよぉ」

「確かに美人なのは認めますけど、こんなぐいぐい来る美人は遠慮します。もっと慎み深い、大和撫子が良いです」

「私だって、四捨五入すればギリギリ大和撫子だって」

「チェンジだチェンジ、四捨五入している時点で大和撫子じゃないでしょ」

「細かいこと気にする男はモテないよ、初めて会った女の子を助けるくらいの大きな度量を持たないと」

「男に対して、モテないよって言えば誰でも思い通りに動くと思ったら大間違いですよ」

「女の子が言うモテないは真実です。美少女である私がモテないと言えばモテないんです」

「だったら言わせてもらいますけど、押しの強い女性は男に引かれますよ、男はいつだって三歩引いて男の後ろにつく、慎ましやかで清楚な女性を夢見るんですよ。数々のラブコメのラノベを読んだ僕が言うんだから間違いないです」

「現実にそんな女の子はいません」

いったい何の言い合いをしているんだろう。普段あまり大きな声で言い合いをすることがないため、お互い息を切らしている

「わかりました、どうせこの後予定があるわけでもないので、体験入部させていただきます」

「最初からそう言えば無駄な苦労しなくて済んだんですけどね」

このアマぁ

相手が先輩であることを忘れて、汚い言葉遣いが出てしまいそうになったが、何とか堪えた

「それで、ファッション部の活動とは、具体的に何をするんですか。今ここでファッションショーでも行うんですか」

「中らずと雖も遠からず、まず私のコーディネートを見てもらって、意見してもらおうと思います」

「意見ですか、あまり僕の意見は参考になるかはわかりませんが、まぁわかりましたよ」

「では早速」

そう言って僕に立つように促し、ドアを開けて廊下を指さした

「出てってくださーい」

このまま帰ろうか、割と本気で悩んだ

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