〜涼花の戦い〜

「さあ! ほっしー、今のうちに!」


「……わかった。」


 星雪は、後ろ髪が引かれる思いをしながらも傷ついた仲間のもとに向かう。


「いこう、義孝」


 真っ黒に焦げた物に寄り添う義孝に手を差し伸べる


「政次を置いていけない!」


 義孝は、差し伸べられた手を払い、黒焦げの物を抱えようとする。


「政次はもう……。今はこの場から撤退するのが一番でしょ……」


 星雪は、目を伏せながら声を吐き出す。


「逃げるくらいなら、戦い、死を選ぶ!それが兵師へいしというものだ!」


 刀に手をかけ、抜こうとするが、その手に力が入らない


「そのやけどじゃ、無理だ。」


「ならお前は、仲間を殺され、さらに仲間を盾におめおめ尻尾を巻いて逃げのか!そんなことをすれば末代までの恥だ!この臆病者め!」


 義孝は、日ごろ見せない激しい感情をみせ、星雪を睨みつける。


「逃げるんじゃない、応援を呼びに行く。それにさっきの奴の攻撃から生き延びている仲間がいるかもしれない、これも戦いだよ!」


 星雪の言葉が晴天に轟いた雷のように、義孝に突き刺さる。


「……よし、みんな動けるか」


 ようやく義孝は日頃の委員長としての顔を取り戻し、先ほどの攻撃を耐えた者たちに声をかける。


「なんとかな」


 残った者たちが口々に答える


「全速力で森の外を目指す。生きて帰ろう!」


 義孝が皆を励ます。


「おう!」


「神谷、頼んだぞ」


「うん、任せて!」


 涼花が背中越しに快活に答える


「逃がすか!」


 男は星雪たちに向かおうとするが突然、目の前に氷の壁が発生し行く手を遮る。


「お前の相手は、うちよ!」


「ふん!まあいい、おどれを片付けてから追えば済む話じゃ。いくぞ!」


 男が腰のブロードソードに手をかけ、一気に引き抜く。


 すると、男の足元に術式が現れ、地面を蹴ったかと思うと目にも留まらぬ速さで涼花に近づき切りつける。その様子は、まるで瞬間移動したようだった。


「は、速い‼︎」


 涼花はとっさにクナイで受け止めるが力負けして弾き飛ばされる。


 2回3回と転がった後うまく着地し、体勢を立て直す。


「つぎじゃ」


 目を上げると男が目の前に迫る。繰り出された男の剣を横っ飛びでギリギリかわし、腰につけてあるフォルダーからクナイを取り出し放つ。しかし男はそれをひらりとかわし突っ込んでくる。


「どこをねらっとる。」


 男は涼花に剣を振り下ろそうとする次の瞬間、男の動きが止まる。その手には氷が張り付き、動かすことができなくなっていた。


「油断したね!」


 その隙を逃さず、涼花はクナイで切り付けるが、男は切り付けられながら後ろに跳躍し服のみが切れるだけに終わる。


(さっき、おどれの放った手裏剣にピアノ線がついとった、それに腕が触れた瞬間、腕が凍った。つまり)


「われ、おどれの手で間接的にでも触れとかんと凍らせれんじゃろ?ピアノ線とは、なかなか楽しませてくれるのぉ。それにわしが起こした炎によって生じた水蒸気も利用しとる。なかなか面白い支配力の使い方をする奴じゃ。じゃけど、わしにはもう時間がないけぇ、われ、もう逝ねや。」


 男が剣を握る力を強めると男の体と剣に炎が発生し、凍った腕が溶け、自由になる。

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