桜月夜に惑わされ

楠秋生

第1話

 を見たとき、なんって非常識な人なの! って思ったの。

 当人たちがいいって言っているんだから、私が口出しする問題じゃないんだけど、やっぱり腑に落ちない。


「一体どういうつもりなんですか!?」

「やっぱり来たね」


 勢いこんで言った私の言葉に、小憎らしいくらいすました顔で答える要先輩の態度が、私の怒りをさらに掻き立てた。



 それは、『桜月夜の接吻くちづけ』と題された写真の話。




 金曜の夜にサークルの新歓パーティーがあって、新入生男子の相手をさせられた私は、いつもよりちょっと飲み過ぎてしまい、翌朝二日酔いの頭を抱えて家に帰った。

 今から思うと、朝別れる前にさきが何か言いたそうだったのよね。だけど、自分の体調が悪かったから気にとめなかった。

 その上、普段からあまりネットもしない、連絡手段としてしかスマホもいじらない私は、月曜になって大学に行くまで、何が起こっていたのかをまるで知らないままだったの。




こと~。匿って~」


 教室に入ると、女友達にもみくちゃにされている咲が逃げてきた。


「何? どうしたの?」

「写真、まだ見てないの?」

「何の写真?」

「え……っと。あの、ね。その前に琴に報告しなきゃいけないことがあるんだけど」


 咲がしどろもどろになって目を泳がせる。


 写真のことを訊いたのに、報告しなきゃならないことって?


「あ、桜月夜の子だ」

「ホントだ。中々可愛~じゃん」


 後から入ってきた男子学生がこちらを見て言っている。


「桜月夜の子?」

「あ~、……っと。もういいや、これ見て」


 咲が両手で頬を覆って目を瞑った後、自分を納得させるように頷きながらスマホを見せてくる。

 不審に思って覗きこむと。

 そこに映っていたのは、桜月夜をバックにした咲と樹先輩のキスシーン。


「え……、これって」


 隣で顔を覆っている咲に視線を向ける。

 そろりと手をずらして、真っ赤になった顔を少し覗かせる。


「あのね、あの、……えっと」


 言いにくそうだけど、写真が全てを物語っている。


「つまり、樹先輩とうまくいったってことよね」


 咲が顔を半分隠したまま、こくんと頷く。


「で、これはどういうことなの? なんでこんなのが流れてるの」


 スマホをつんつんとつついて訊いてみる。写真はネットにアップされていた。


「あのね、土曜の夜にたつき先輩と食事をしたの。その途中に要先輩から電話がかかってきて、私たちに話があるって。で、その後すぐにやってきて写真を見せてくれたの。それで、盗撮みたいになってしまったことを謝ってくれて」


 みたい、じゃなくて、まんま盗撮じゃない。と思ったけど、そこは突っ込まず。


「写真を勝手に流したことは謝らなかったの?」

「違うの。その時はまだ流してなかったの」

「え? どういうこと?」

「しゃ、写真集を出したいって。……他にも写真があってね。それで、先にこの一枚を流してもいいかって訊かれたの」

「何それ? どういうつもりなの? っていうか、樹先輩もそれでオーケーしたわけ?」

「樹先輩は……私がいいなら、って。要先輩を信用してるからって」

「で、断れなかったのね?」

「まさかこんな大事おおごとになるとは思わなかったから……」




 不安そうな顔の咲を見て、直談判に行くことにしたの。

 だって個人情報を勝手に(一応断ってるけど、咲が本心から納得してないもの)流すなんて! 

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