君といたい。ただ、それだけのこと。

都稀乃 泪

第1話 入学式の朝

今日は中学校の入学式。


初めて着るセーラー服に少し手間取ってしまった。ちょっとダボっとした制服に

「こんなに大きくなれるのかな?」

と期待していた。

長めの髪を高めにまとめて、後れ毛をピンで留める。


もう1度持ち物の確認をして行こうとしたところで、

ママが「記念写真を撮りましょう」とうるさいので1枚だけ撮った。

写真はあまり好きじゃない。

もう1枚撮りそうな雰囲気になったところで「行ってきます!」と言って強引に逃げた。


いつもとは違った景色、通ったことのない道、見たことのない建物。


迷子になりそうで、もう学校にたどり着かないんじゃないかって、不安で仕方なかった。


うちの住んでる区域が、一番人数の多いはずなのに、誰とも会わない。



そんな事実がさらに不安を募らせた。


だけど、さすがに学校の近くまで行くと見慣れた後ろ姿が数人、前を歩いていたので少しほっと肩をなでおろす。


そのまま進んで行くと、数分後には見覚えのある中学校の校舎が見えた。



「あー!保乃香ほのか!!」

と聞き覚えのある大きな声が、中学校舎の方から聞こえてきた。


その声の持ち主は十花とおか

十花とおかは低学年の時の親友。今でこそあまり話さないけれど、互いに何でも言い合える関係なのだ。


十花とおか…早いね。いきなり大声出して…びっくりさせないでよ〜。」


それから少し話していると、後ろから


保乃香ほのか、おはよ」

という声がした。


「おはよ。あれ、リエコもいたの?」


リエコも小学校からの付き合い。6年間ずっと同じクラス。でも、あんまり話したことがなく、接点なんて委員会くらいしかなかった。


「うん。」


「…入んないの?」


「開いてなくてさー」


「そうなんだー…あ!クラス分け貼ってある!何組だろ~」


何か、グラフのようなものに細かい文字で何かが書かれているA4の紙が縦に貼られている。あれは多分クラス分けの紙。

目を凝らしてじーっと見つめる。すると、十花とおかが視線に気づいたのか


保乃香ほのかは、私と同じクラスだよ」


「何組?」


「3組」


自分で探したかった、という残念な気持ちが湧いてきたと同時に探す手間が省けて楽だなぁ、という気持ちが生まれて私の中で混ざり合おうとして混ざり合わない。水と油のように混在していた。


そんな感情を私は心の奥深くに呑み込んだ。


保乃香ほのかと一緒とか…」

残念がる十花とおか。でも、うちは十花とおかと一緒で安心した。

ま、そんなこと言わないけど。


「えーそんなこと言うなよー(笑)」

とだけ言った。


階段を上ると、十花とおかが貼り紙の前に立っていて見えなかった。


十花とおか、邪魔」


「あ、めんご☆」


「お、留奈るなも同じクラスじゃん」


「たしか亜由美あゆみもだよ」


「え、まじで?…あ、ほんとだ。うち亜由美あゆみと同じクラス7年目なんすけど。」


「まじか」


「まじだ。そういえば、リエコは?」


「あー、うちは1組だった。」


「まじか、6年間一緒だったけどそれも遂に今年でお別れですねー」


「そうですねー。あ、でも里奈りなも1組なんだ」


「おー、良かったじゃん!」


「6年一緒とかすごっ!」


「でしょ」


「うちにそんな人いたかなー」


「柳ヶ瀬は?」


「んー、そーなんだけどー今年離れた。」


「まじ?つまんね」


「え、なに、今の」


「冗談だって。ちなみになっちゃんは?」


「2組。あ、おはよ〜」


「おはよう」


「にしても、知らない名前多いね」


「これ、なんて読むの?」


「いや、これ同小じゃん!」


「あ、分かっちゃう?」


「いや〜六年の付き合いですからね~」



それから、昇降口の扉が開くまでずっと、そんなくっだらない内容を話していたら、この学校の先生(多分)が鍵を開けてくれた。

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