第14話 白の国へ
そうして、私達は赤の国を出発し、次なる目的地、白の国へと向かった。
窓の外を見ながら、ララが、
「赤の国とはまるきり違いますわね」
と仰天した。確かに、白と赤の国とは対照的だった。島の上には大小様々な流線型の白い建物が立ち並び、周りは透明なパイプがはりめぐらされ、その中を円形の小さな乗り物が何台も滑るように走っていく。道は象牙のように白くぴかぴかに光っていて建物は国の端から端まで占めているようだ。
「この巨大な街一つが国なんだぜ、すごいだろ? 」
アレクセイが苦笑する。
近未来に来たみたい。でも、私が想像するような未来都市と違って、緑色の街路樹と白の建物の色合いがとても綺麗だし、赤の国にはずっと劣るけど、それなりに自然もあるし、自然と都会が調和しいて美しい国だな、と思う。
一段と高い建物の屋上に到着すると、白い床が自動で動き、私達は馬車ごと建物の中に運び込まれた。私は窓から外を眺めた。中はガラス張りの広い空港のようになっていて、あちこちに動く緩やかな曲線の白い床があり、人々がそれに乗って上下、左右に移動していく。白の国の人々は、男女とも皆天使のような裾の長く白い衣装を着ていた。色が白く、白に近い銀髪がとても綺麗。
そして、私は彼らの背にある物に仰天した。
真っ白な羽が背中に生えている!
ララがおかしそうに笑う。
「彼らは有翼人と呼ばれていて、ドラゴン族と同じ、羽を持ち、空を飛ぶ種族ですの。まあ、見た目は失礼ながら全然違いますけれど」
馬車はそのままある小部屋まで通され、私達はそこで馬車を降りた。そこで白の国の女性が一人待っていて、静かに、王の元へとご案内します、と告げ、外に出た。
部屋の外に出ると、また移動する廊下のような物に乗って静かに、滑らかに移動し、白い壁の前まで来て止まった。すると、壁が大きく左へスライドし、日の光がさんさんとふりそそぐ、白くて広い部屋が現れた。立派な社長室みたい。
奥の机には三十代ほどの男性が座っていた。
彼が片手を上げると、周りにいた部下らしき男性や女性が静かに去っていく。
男性が再び片手を上げると、彼の机と私達の間に、広い円形テーブルと椅子が現れた
。
かけられよ、と彼は言い、私達はそれぞれ椅子に座り、彼も私に近い、背もたれの低い椅子に座った。羽があるのも大変だなあ。
「白の国へようこそ。わたしは王のクレイ。黄金国の王の訪問はわが国の誇りである」
肩まである流れる銀髪と端正な顔立ちを持つ彼は、無表情で静かにそう言った。こちらが救世主、マコト殿です、とバドが私を紹介した時も、ちょっと眉を動かしただけで、ほとんど表情は変わらない。何か、やりにくそうな人だなあ。
クレイは淡々と続けた。
「今回はお忍びとか。他の国にはもう行かれたか。青の国は。・・そうか。あそこは小さいが美しい国だ。・・・で。赤の国は」
私が頷くと、彼はたちまち眉間に皺を寄せた。
「赤の国の王が何か言っていなかったか。実力主義だとか何とか。下克上の野蛮な国の意見など聞かれぬ事が賢明だ。王位は継承される物とは言え、我々はそれに甘んじている訳ではない。幼い頃から学業は勿論、人格も最高であるよう誰よりも厳しくしつけられている」
うわー、凄く怖い顔をして。やっぱり赤の国と仲が悪いんだなあ。
「クレイ殿も勉強家と聞きました」
険悪な雰囲気を消そうと、慌ててバドが言った。クレイの眉間の皺が少し和らぐ。
「ああ。この国はまず学習ありき、だからな。何事もしっかり自ら考え判断する力をつけねば大人になってから苦労する事になる。男女問わず勉学に励む者には投資を惜しまない。たとえ勉強の苦手な者がいても充実した学校のカリキュラム、一流の講師陣、きめ細かい精神的なサポートで支援する。わが国民は皆勉強家で知られている。結果、一流の技術力も身に付ける。技術力は社会で生きて行く大きな武器だ」
ふうん、なるほどね。私は成績中ぐらいで、何で勉強しなきゃいけないのって思うときがあるけれど、学校や勉強で身に付ける物は、単に知識だけじゃなくて、もっと大切な物もあるんだなあ・・。
私が真面目に頷いていると、クレイは少し目を細めた。
「今回の滞在は短いそうだな。私も失礼だが時間がない為、簡単にわが国を見ていただこう」
皆そろって建物の外へ出た。
「まあ、綺麗」
ララが目を輝かせた。
流線型の美しい建物をバックに、人々が自動回廊で、又は優雅に空を飛んで移動している。飛んでいると本当に天使みたい。
高い建物には、何階か毎に半円形のでっぱりがあって、空を飛んでいる人々は、そこから飛び上がったり着陸したりしている。そういう建物の中には、お店もあるようだ。離着陸が楽でいいなあ。
建物の高い階層や屋上には必ずと言っていいほど半円形のでっぱりがあり、そこはレストランになっている。
私は小声でバドに尋ねた。
「あんな高い場所で怖くないのかな。大体、落ちたら死んじゃうよね!?」
バドはぷっと吹き出す。
「マコト、彼らは落ちても大丈夫ですよ。羽がありますから」
あ、そっか。
私達は勿論飛べないので、自動回廊でぐるりと美術館や学校、博物館、オフィスビル等を見て回った。どれも超高層ビルではあるのだけれど、曲線的だったり芸術的だったりして、普通にイメージする無機質な感じはしない。白で統一され、芸術的な美しい国だ。
それに、私は街やビルにいる女性に注目していた。
オフィス街を飛び回る女性達。オフィスのビルの中を窓から覗いても、男女率は半々のようだ。レストランのコックさんも女性、自動回廊を工事している人々の中にも女性が普通にいる。
私はクレイに話しかけた。
「女性も多く働いているんだね」
「ああ。男性と変わりない。ここは男女平等だから働く女性も育児や家事をする男性も普通の事だ。他の国のものには不思議がるけれどな。・・・救世主殿はどうお思いか」
「最高だよ! 僕の世界でも女性は働いているけどここほどではないよ。それに、何か気を使って働かなきゃいけない、という雰囲気があるんだ。でも、この国は見ていると、何て言うのかな、女性がすごく自然に働いているように見えるんだ。女性である事に差別もなく気負わずに働いていける。それが一番大切な事だと思う。この国は本当に素晴らしいよ! 」
「ほお」
クレイの目が、少し見開かれた。
「救世主殿は進歩的な考えだな」
私はすごく驚いた。
「別に、当たり前の事だよ! 自然じゃないか」
ふっと、クレイの口元がゆるむ。
何か、一瞬微笑まなかった!?
やっぱりそうだ。私は確信した。一見冷たそうに見えるけど、それは彼らの習性なんだ。
じっくり他の人達を観察していると、彼等は決して無表情ではない事が分かる。喜怒哀楽をあまり表に出さない、又は出すのが恥ずかしい種族なのかもしれない。
まあ、クレイはとりわけとっつきにくそうだし、ちょっとプライドが高そうだけど、実際は根は悪い人じゃないと思う。生きるための教育、と言うのは凄く分かるし、男女平等も大切だ。彼は彼なりに国民の事を案じているんだなあ。
クレイは穏やかな口調で続ける。
「・・実は、昔、異世界の救世主にこの国は随分と助けられた事がある、と聞いた。この国の技術力や男女平等の考えはその王から伝わったものだと。異世界の救世主には借りがある。いつかそれを返したいと思っていた。救世主殿、何かあればなんなりと私に言ってもらいたい」
そうして、私達は白の国を発つ事になった。別れ際、私はクレイに声をかける。
「クレイ、早速借りを返してもらいたいんだけど。黄金国に来て欲しいんだ。また日時は連絡するから」
「そんな事か。・・・構わぬが」
「絶対来てね。約束だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます