第9話 テオの悩み
「とても立派なお城ですわね」
いや~、と、テオは頭をかいた。
「王は代々この城に住む事になっているのですが、立派すぎて苦手なんですよ。僕は贅沢には興味がないし、こんなに大きくても持て余すだけだし、なるたけ質素に暮らして、余った予算は国民の為に使うようにとしているんですが」
テオって、上品な学者みたい。王様だから、偉そうな人だろうなと思ったら、誰にでも物腰が丁寧で、優しくて、王様だと言う雰囲気が全くない。それに、自分の事よりも国民の事を大事に考え、彼らを愛しているのがすごくよく分かる。もしかして、こういう人こそ真の王なのかも。
私はふと気がついて、テオに言った。
「テオ、何か急ぎの用があるのなら、行ってくれていいよ。全然構わないから」
先程の彼の浮かない顔が気になった。
すると、彼は再び顔を曇らせた。
「いえ、議会はあと回しで良いのですが。どうせ何度議論しても良い案が出てこなくて・・」
彼は先を言うか言うまいか悩んでいたようだったが、やがて口を開いた。
「実は、この国をもう少し活性化させたいのです。何度開く議会もその為の事で。わが国は一番小さく、赤や白の国のように、これと言った強みもありません」
赤と白の国の強みって? と尋ねると、赤の国は鉱物等の資源に恵まれ、白の国は技術が発達しています、とテオは答えた。
「ただ常夜の国、と言うだけでは物珍しいだけのようで。魅力が今ひとつないのか最近多くの若者が黄金の国などへ流出し始め、困っています。他国からの来訪者や、移住者も歓迎しているのですが、皆青の国には何故か来てくれないのです。噂では夜ばかりなら治安も悪いと考えているとか。ここで生まれ育った僕にはさっぱりその感覚が理解できません。夜こそ静かでのんびりできて、平和なのではありませんか? 」
「うーん。それが僕達の感覚では逆なんだ。犯罪は明るい昼より夜の方が多いし。旅先でも夜出歩いちゃいけないって言われるよ」
テオはショックを受けたようだった。
「そんな!! 僕達は暗くてお互いがよく分からないからこそ信頼と友愛が大事だと考えています。女性や子供の一人歩きも全く問題ない治安の良い所です! 」
「確かにそうかもな」
とセドリック。
そうかあ。所変われば、だなあ。
確かに、さっき街中を歩いている間も全く危険を感じなかった。皆夜の間も出歩くせいかもしれないけど。でも、出会った人々みんな、すごく親切に接してくれたなあ。
テオがため息をついた。
「このままでは人口が減る一方です。なんとか国を活性化させ、国民を増やしたいのです」
「人を集める方法かあ・・」
私以下、一同うーんと頭をひねる。
美しくて綺麗な国。常に夜の国。それを何とか生かせないかなあ。何か、もっと人が、国民は勿論、他国からも人が集まってきてくれるような。
確か・・私のいる世界では・・
「お祭りとか国のPRになるしいいんじゃないかな? 星花火って、ここの名物なんだよね? それで花火大会はどうかな」
私の問いに、残念そうにテオが首を横に振った。
「それを考えた事もありますが、星を集めるのが結構大変な作業で・・。他国から人を集められるほど大規模な花火大会は開けません」
じゃあ、とララが口を挟む。
「仮面舞踏会なんてどうかしら? 夜の国で踊るなんて素敵だと思いますわ 」
アレクセイが、どうかな、と渋い顔をした。
「舞踏会なんて俺達王族の間では一般的でも、庶民には堅苦しくないか? 」
再び、皆、うーんと唸った。皆が参加しやすくて・・。そうだ!
私は思わず、どん、とテーブルを叩いた。
「男女あべこべの、仮装仮面舞踏会はどうかな!? 男性は女性の、女性は男性の格好に扮装する。仮面をつけるから男性でもそれほど抵抗感はないだろうし、普通の舞踏会と違って堅苦しさがないから、誰でも参加しやすいと思うんだ。で、それを目玉に、ここを観光国にするんだよ! すごく綺麗で平和な国じゃないか、観光にはもってこいだよ。他国から観光客が増えれば、地元の商業も活発になるし、この国を訪れた人がここに住みたいってやってくるかもしれないよ!」
「それは面白そうだな」とアレクセイ。
「星花火も一緒にしたらどうかしら? ロマンチックできっと素敵ですわ! 」
「大オーケストラの生演奏付きで踊るのもいいのではありませんか? 」
私達の提案にテオは目を輝かせ、
「では、手始めに早速、仮装仮面舞踏会をやってみますか! 舞踏会の日は会社も学校も皆休日にして、国民に参加するよう呼びかけます!」
一人じっと聞いていたセドリックは、ぼそっとつぶやいた。
「大切な事を忘れてないか。観光客も増やしたいんだろ。だったら他の国の奴らも呼ばないと」
「あ、そうか」と私。
「でも、どうやって? 」とララ。
あんた達先の事何にも考えてないな、とセドリックは大きくため息をつき、
「だから、お客なんてすぐ集まらないだろうから黄金国から僕達の親戚や友人達を招待したらいいんじゃないか? その舞踏会が良かったら、皆勝手に評判を広めてくれるよ」
なるほどな、とアレクセイは頷いた。
「じゃあ俺は騎士仲間をたくさん連れてこよう。バドとララも頼んだぞ」
もちろん、と二人は強く頷いた。
では決まりですね、とテオが嬉しそうに笑った。
「ただ、仮装舞踏会をするとなると、主催者である僕が女装しない訳にはいかないですよね~。と言っても恥ずかしいので、一つお願いがあるのですが。このお祭りに是非救世主殿にも参加して頂きたいなと」
「いっ!? 駄目駄目、できないよ!」
そんな事したら、きっと女だってばれちゃう!・・かもしれない。
アレクセイはにやにや笑う。
「いいじゃないか。マコトが女装したらきっと可愛いだろうし」
そしてバドまでが能天気な声で賛成した。
「あー、それはいいですねえ」
ええっ!?
私は勢い良く立ち上がると、皆には、あははー、ちょっと失礼、と言いながら、ぐいぐいと、バドを部屋の隅にまで引っ張り、声を押し殺して彼に尋ねた。私は今きっと、どんなホラー映画の幽霊よりも怖い顔をしていたに違いない。
「バド、もしかして・・・」
バドがしまった、と言う顔をした。
やっぱり!!
「・・・まさか、私が女だって事忘れてたわけじゃないでしょおねええ」
バドは目の前で両手を合わせた。
「す、すみません! 一瞬です、一瞬! あまりにも不自然がなくて・・、いや、その」
ふうん。私のこめかみがぴくぴくと痙攣した。あ、そう。いいんだよ、別に。
私はくるりとテオに向き直った。
「いいよ」
「本当ですか! 」
「その代わり、ここにいる皆もしてくれるんだったらね」
「えええーっ!? 」
ララ以外、全員が悲鳴を上げた。
ふん。私だけにさせてたまるかい。一連托生よ。
「冗談じゃない、僕はごめんだよ! 」
「俺もかい!? マコト、それは勘弁してくれよな」
「あら、面白そうじゃございませんこと? ねえ、バド」
顔面蒼白のバドは、ちらりと私を見た。
「わわわ、私は・・・・はい。そうですね」
セドリックが仰天した。
「な、何言ってるんだ、バド!!」
「・・・ですから、すべては王の・・」
「そう! 命令だから」
きっぱりと言った私に、ララとテオ以外、一同がっくりと首を折れた。
ふん。こういう時に王の特権を生かせないでいつ使うってゆーの!!
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