第8話 青の国へ。
それから一週間後、私達一行は、まず青の国へ出発した。小さくも可愛らしい馬車に私とララが乗り、御者台にはバド、後方にはそれぞれ馬に乗ったアレクセイとセドリックがついている。馬は全て翼を持った金色のペガサスだ。
青の国は、黄金の国から一番近い隣国だ。両国の間には大きな森があり、その森を入ってしばらくすると、青の国があるとバドが言う。
「それぞれの王に会うのですから、身分を隠して、と言う訳にはいきません。王達には次期国王が来られる旨伝えております。ただ、お忍びであると言ってありますので自由に国内は見て回れますよ」
「青の国って、どんな所だと思われます、マコト? 」
ララは早くもうずうずしている。私もちょっと遠足気分でなんだか楽しい。本当は、王を見つけなきゃいけない真剣な旅なのに。
「ほら、見えてきましたよ」
バドの声に、私とララは窓にへばりついた。
「わあ・・!! 」
森の中に、青い銅製のような門がいきなり存在していた。
「そと、外に出てもいい!? 」
馬車から出て、その巨大さに呆然とした。
左右の幅は、端が霞んで見えるほど広く、高さともなると首が痛いくらい見上げても、空のずっと高い所まで門が立っているようで、上が見えない。
馬から下りたアレクセイ達が傍にやって来た。
「中に入ると、もっとびっくりするぜ」
「黄金国から参りました」
バドがそう扉に向かって声をかけると、ギギギ、と重そうな音を立て、ゆっくりとひとりでに扉が開いた。そうして、そこには__。
「!!!」
私達の目の前には、漆黒の空が広がっていた。空には満月がぽっかり浮かび上がり、星がきらめいている。
「え、だって今は昼だったのに!?」
慌てて後ろを振り向くと、門がゆっくりと閉じられていく所で、隙間から差し込む眩しい光に目がくらりとした。やっぱり、向こうは昼だ。
セドリックが言う。
「青の国は決して日が昇らない国。この国は常に夜なんだ」
石畳とレンガでできた美しい町には街灯が浮かび、しんと静まり返っていた。元は何の色なのだろう、月光を浴びて、建物が、道が、全ての物が深い青色に包まれていた。
青だ。
だからここは青の国なんだ__!!
「見て、マコト! 」
ララが指した空を見ると、星が煌き、次の瞬間位置をくるくると変えペガサスの形になった。星座みたいだ、と思った瞬間、しゃん、と鈴のような音をたて、星は消滅した。見ると、空のあちこちで星が集まり、花や動物の美しい形を作り消滅していく。
「星花火ですよ。ふふ、お忍びと言ったのに。青の国の王は我々を歓迎してくれているようです」
じゃあ私は先に王に挨拶してきますから、とバドは馬車を走らせて行った。
私とララはきょろきょろ歩きながら、アレクセイとセドリックはその後ろを、馬を引きながらのんびり歩いて行く。
少しすると、大きな通りに出た。通りの先には青白い城が見える。ここは城下街らしい。
両側にある店の何軒かは明かりが灯り、食事をしている人達のざわめき声が聞こえてくる。道端では静かにヴァイオリンを弾いている人、それに聞き入っている人達、手を繋いで歩いて行くお母さんと子供。皆闇に溶け込みそうな黒髪に紺の服を着ている。
その時、ふと通りを歩いていた中年女性が私達を見た。
私は金色のマントをきっちり胸の前で締め直した。黄金国の王の象徴、獅子の印を見せない為だ。お忍びだから、一般の人に知られちゃいけない。
その女性はつかつかと歩いて来ると、満面の笑顔を見せた。
「旅の方ですか、まあお珍しい」
「は、はい」
すると、周りの通行人や、お店の中にいた人までが、わっと私達を取り囲んだ。
「黄金の国から来られましたの、ゆっくりなさって下さい」
「大歓迎ですよ、どうです、うちのソーセージ」
「どこに泊まられますか? よければわしらのうちでも」
ありがとうございます、はい、頂きます、いえ、友人の家に泊まるのでこれで、と私達がたじたじになっていると、四頭の黒馬が引く立派な馬車がやって来て、私達の前で止まった。
バドが馬車から顔を出す。
「さ、これに乗ってください。皆さん、すみませんね。ちょっと急いでおりまして」
彼が街人に会釈をすると、皆、良い旅を、と笑って手を振ってくれた。
私が馬車に乗り込む時、アレクセイが耳打ちした。
「ここではいつもこんな調子さ。人々が優しくて、ほんと、ほっとする所だぜ」
立派な馬車は滑るように走り出し、やがてお城に到着した。入り口に通されると、紺色のマントに、同じく紺色の、たっぷりとした長い、床まで着く上着を着た男性が小走りに出て来た。ちょっとウェーブがかった長めの黒髪を、後ろに一つでしばっている。瞳も深い紺色らしい。怪盗ルパンのように、片方だけ眼鏡をしているのがおしゃれだ。
王と言うから、おじいさんを想像していたら若い人だったのでびっくりした。バドと年齢変わらないんじゃない? あ、でも私も人の事言えないか。
向こうも同じ事を考えたようで、一瞬びっくりした表情をしたが、すぐ温和な顔に戻った。
「青の国へようこそ、救世主殿。大歓迎致します。僕はこの国の王、テオと申します」
テオは片方の膝をつけて、丁寧にお辞儀をすると、食事の用意ができておりますから、と私達を広間へ案内した。
食事はとても美味しかった。食べ盛りの私、ララ、セドリックはぺろりと平らげバド達大人組に笑われた。
ララはむくれた顔をしたが、すぐテオに向き直って質問した。
「わたくし全然こちらの国について知らないのですが、普段はどうやって生活されてますの? 」
「皆さんと同じですよ。一日二十四時間は変わりません。皆さんが言う「朝」七時頃に起き始め、大人は働きに、子供は学校に行き、夜の六時頃には帰宅、その後就寝です。」
「でも、ずーっと暗いんだよね? 」
と私。
「僕達は暗いのになれっこですが、真っ暗というわけではありませんよ。活動時間帯は、あちこちに明かりがついて結構明るいですし、不便は感じません。僕達にとってみれば、太陽が昇ってまた沈むだなんて、慌ただしい生活のようで想像できません」
そうして私達は和やかに会食した。既に何回か訪問しているアレクセイはテオと談笑している。こうして大きな窓から眺める夜景も綺麗だし、テオは優しい王様だし、とってもいい所なんだなあ。
そう思っていた時。
「テオ様、失礼致します」
秘書らしい男性が扉を開け、彼に書類を手渡した。
ちらと書類を見たテオが一瞬顔をしかめた。
「・・後で行きます」
はっ、失礼致しました、と男性は私達に頭を下げ、出て行った。
何だろう。私の疑問をよそに、ララがテオに話しかけた。
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