第6話 それはフラグですか?

翌朝。私はベッドの中でもぞもぞと動いた。あー、気持ちいいな。そろそろ起きなきゃ。

 半分起き上がり、両目をごしごしこする。


「おはよう。よく眠れたか? 」


 え。


寝ぼけ眼で左隣を見るとアレクセイがにっこり笑ってこちらを見ていた。


 ベ、ベッドの中にいる。

 一つのベッドの中に私とアレクセイが・・。


 う。

「うわあああああ!!!」


 私は館中をひっくり返すかのような大声をあげた。

たちまち両隣や前の部屋からどたばた人が起きる音、誰かがこちらに走って来る音が聞こえた。その中でひときわ恐ろしく早い足音が近付き、ばん!と威勢良く私の部屋のドアを開けた。


「マコト、どうされました!?」

「バドぉぉお!!」


 私はきっと、半分泣きそうな、安堵で笑ったような変な顔をしていたに違いない。

 バドは私を見ると、すぐその隣を見て目を剥いた。


「ア、アレクセイ!? 何をやっているんですか!!」

怒るとかなり怖いバドを見てもアレクセイは気にも留めないように、にやりと笑った。

「何って・・。マコトを起こしに来てあげんたんだぜ、親切に。でもあんまり可愛い寝顔だからさ、起こすのが可愛そうになって。で、起きるまでそっとしといてあげようと」


 バドがさらに言いかけようとした時、ばたばたと数人が部屋になだれこんできた。

 息を切らし、顔を真っ赤にして入ってきたセドリックを先頭に、ララ、エヴァ、メイドさん達数人まで入ってきた。


「どうしたんだ!?」

「どうしましたの!?」

「どうされました!?」


それがあまりに異口同音だったのでアレクセイは吹き出し、私も思わず笑いそうになった。あ、違う。笑ってる場合じゃない。


ララはアレクセイを見て目を剥いた。

「お兄様!! 何て事をしていますの! はしたない!」

「お前こそ、似たような事考えてたんだろ。なんだその花束は」

 ララは顔を真っ赤にして両腕に抱えていた花束を後ろに隠した。


「わ、わたくしはバラがあまりに美しいからマコトの部屋に生けてあげようと思っただけですわ!・・・おかしいと思ったら、やっぱりそうでしたのね。お兄様が相手なら不足はありませんわ。負けませんわよ」

「言っておくが、先に目をつけたのはこちらなんだぜ。わが妹と言えど手加減しないからな」

 二人の美しい兄妹は互いを見つめながら不敵に笑い合った。うわあ、なんか視線がばちばち言ってる。怖いよお。


セドリックはそんな二人にお構いなく、ぐいっとララとアレクセイの腕を引っ張った。

「ちょっと、セドリック何しますの」

「こちらはまだ取り込み中なんだがな」

 そう不満を言うアレクセイ達に彼は怒鳴り声を上げた。


「兄弟げんかは他所でやれ! こいつは一応客人だ、ここにも慣れていないのに朝っぱらから疲れさせるな!皆早くマコトの部屋から出るんだ、さあ、さあ! 」


 すごい剣幕で渋るアレクセイ達はおろか、バドやメイドさん達も全員締め出してしまった。


 私はぽかんと、その様子を見ていた。

セドリックが他の人にあんなに怒るの初めて見た。一応、かばってくれたんだよね。


すごく不思議だ。最初はあんなに態度が悪かったのに。もしかして、人見知りとか・・・、思ったより悪い奴じゃないのかな。

今も、セドリックはらしくなく私に心配そうな顔を向け、優しく

「マコト、大丈夫か」

なんて言うのでこちらも調子が狂ってしまう。何故か顔が赤くなる。私はそれを隠す為に慌てて俯いた。

「あ・・、うん、うん。ありがと」

「大体。マコトがしっかりしてないからこんな事になるんだぞ」

 ほら、やっぱり文句言う。

でも今の私は先程の衝撃が残っていて、反撃する元気はなかった。


「そうだね・・・。ごめん」

 素直に謝った私を見て、セドリックは意外そうな顔をした。暫しお互い沈黙し、彼はくるりと後ろを向いた。

「あ~、あの。良かったら、寝る時僕の部屋に来ていいんだぞ」


 えっ!?

 私は驚いて顔を上げた。

 セドリックの表情は向こうを向いていて分からない。何か盛んに頭を掻いている。

「べっ別に、変な意味じゃないからな。僕の所もベッドは広いし、魔法で鍵もかけられるし、何かあってもすぐ分かるだろ、だから・・」

「いっいい、いいよ。僕一人じゃないと眠れない性質なんだ。あの、寝相も悪くて。でも、あ~、ありがと。気持ちだけ受け取っておくから」

 私は慌てて両手と同時に首も横に振りつつ拒否した。セドリックには見えていないと言うのに。


 今の顔を見られる訳にはいかない。きっと真っ赤になっている筈だ。

男同士なら問題ないけれど、男女なら大有りだよ~。


こちらを向いたセドリックも、何故か赤くしている。

「い、いや、そうだよな。分かった、気にするな。・・・でも、又何かあったら呼べよ。すぐ来てやるから」

「う、うん」

「じゃ、じゃあな」

 セドリックはそそくさと部屋から出て行った。

 私の心臓はまだバクバク言っている。

 ベッド脇の壁にかけられている鏡を見ると顔が真っ赤だった。


 あちゃ~、セドリックにばれなかったかな。でも大丈夫だよね。私は男なんだから。

 それにしても、とため息をつく。

 アレクセイみたいな格好いい人に毎回毎回せまられてちゃ心臓がもたないよ。

 でも、と私は頭を振った。


 駄目だ。私は男なんだから。否、ここでは男同士でもOKなんだけど、私は事実女なんだからそれを絶対に悟られちゃいけない。男なんて興味ありません、みたいな顔をしなきゃ。

でも惜しいよね、アレクセイみたいなあんな格好いい人。あ~、ややこしい!!

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