第4話
「なんでここにいるのよ?嘘でしょ?最悪よー!」
は、発情変態男ですと?
散々な言われようだ。俺そんな目で見られていたのか…。
かなりショックだ、というよりも…。
「変態とはなんだ! 失礼だろ」
「いつもねっとりとした視線で嫌だったのよ。あんたみたいな発情している変態に会うなんてついてないわ」
マジかよ、あの本屋の目の合わせは俺に気があるわけじゃないのかよ。
俺の人生は見逃し三振アウトゲームセットで負けか?
というか女ってわかんねぇ。っていうか。
「俺のこと知らないのにそういう行動や外見で判断するなよな」
「行動は大事でしょ?」
「あのさぁ、それ以前にもう同じアルバイトしているんだから自己紹介くらいしとけよ。それと年上なんだから敬語くらい使えよな」
「あんたに敬語はつかいたくないけど、名前なら名乗ってあげるわ」
なんて偉そうな女だ。
しかし、名前を知ることで親密にはなれるのかな?
いや高校時代はタケちゃんと女子に言われたことのある俺だ。
下の名前で呼び捨てがベターな答えだろう。
さっそく自己紹介をすることにした。
「あ、ちなみに俺は藤田武雄っていうから武雄さんって呼んでくれよな」
「私は神野木千紗かみのぎちさよ。神野木さんって呼びなさいよね。変態発情の武雄」
「いきなり呼び捨てで、また変態発情って言ったな。いい加減に…」
「2人とも喧嘩は止めて欲しいのですわ」
俺と千紗の口喧嘩に黒のミディアムロングの髪型のウェイトレスが止めに入る。
先ほど俺を厨房まで案内した女の子だ。
「採用された藤田武雄さんですね。私は鎌田真日流かまたまひるですわ。これからよろしくお願いしますわ」
ウェイトレスの鎌田真日流ちゃんが丁寧に頭を下げる。
俺は先ほどの喧嘩がバカバカしく感じて、一時休戦することにした。
「ああ。鎌田真日流さんね。真日流ちゃんって呼んでいい?」
「かまいませんわ」
真日流ちゃんは笑顔で答える。
千紗と違って中身も優しくて可愛い子だ。
「あんた今私に失礼なこと考えてなかった?」
千紗が俺をキッと睨む。
「いや、別にどっかの誰かさんと違って性格の良い子だなって思っただけだよ」
「何よ、それ! やっぱ失礼なこと考えてたじゃない」
「そう思うならその口のきき方どうにかしとけよ。千紗」
「なれなれしく呼ばないでよ。気持ち悪いわね。言っとくけど私の学校でも神野木さんってクラスのみんなにも呼ばれているんだから、同じように呼びなさいよね」
「嫌ですー。俺に武雄さんっと言わせるまでは呼ばねーからな」
「ムカつく奴ねー」
お前にだけは言われたくないぜ。
「2人とも喧嘩は止めて欲しいですわ」
真日流ちゃんが再び俺達の口喧嘩に止めに入った。
困った顔をしているので我ながら大人げないと思った。
「真日流ちゃんがそう言うならもう止めるよ。大人になろうぜ千紗」
「鎌田さんがそう言うならもう止めるわ。年上なんだから大人になりなさよね武雄」
千紗はむかつくことを言って客席に料理を渡しにいった。
脳内奴隷彼女で決定。
脳内でエロいこと俺にされる妄想道具にしてやる。
「喧嘩はもう終わったのかだぜ?」
厨房から男の声が聞こえた。
振り返ると身長170センチの金髪の厨房服を着た男が立っていた。
年上に見えたので俺は口喧嘩で高ぶった気持ちから委縮する。
「お前さんが佐波山店長の言っていた武雄だな?」
「は、はい。そうですけど」
「俺は渋谷康介だぜ。佐波山店長にも聞かされてると思うが、お前さんの調理指導とか担当することになったんだぜ。一つよろしく頼むんだぜ」
「どうもよろしくお願いします」
「鎌田、3番テーブルの客のメニューもう出来たからいつものテーブルに置いといたんだ
ぜ」
「はい、すぐに持っていきますわ」
真日流ちゃんは渋谷さんにそう言われるとカウンターに置いてある煮込み物が乗ってある皿を客席に運んで行った。
「武雄。さっそくだがウェイターの服に着替えるんだぜ」
同じ厨房で働くことになる先輩の渋谷さんが予想外なことを言ってきた。
そして俺にウェイターらしき服を渡す。
「俺も接客やるんですか? 佐波山店長から調理スタッフとして働けと言われたんですが」
「それは後で説明するから、今はいいから着替えるんだぜ」
「…わかりました」
なんだよ90点アルとかいってた癖に結局接客やるのかよ。
俺はふたたび着替え部屋でウェイターの服に着替えた。
そして渋谷さんのいる場所まで戻って来た。
「着替えましたよ」
「厨房服よりも似合ってるんだぜ」
嬉しくないことを言ってきた。
やっぱり接客させる気なのだろうか?
料理は合格したのにやっぱ最初は接客なのか?
ちょっと渋谷さんに聞いてみることにした。
「それで俺に接客やらせるんでしょ? 最初は皿洗いとかですか?」
「違うんだぜ。これを届けるんだぜ」
そういって渋谷さんは俺に肉の塊の物が乗せられてラッピングされた容器を俺に渡した。
「何ですかこれは?」
「北京ダッグだぜ」
「それは解りますけど、どのテーブルの客に渡すんですか?」
「どのテーブルの客にも出す必要はないんだぜ」
「じゃあどうするんですか?俺に北京ダッグを食べろとでも?」
「そうじゃないんだぜ。これは出前だぜ」
出前? ああ、外に出て客の家まで運ぶやつか。
ああ、出前ってそういうことか。
「武雄君。調理の前にまずは出前からアル」
佐波山店長が厨房から中華包丁を持ってこっちにやってきた。
おそらく調理中だったのだろうが、中華包丁くらいは台の上に置いてきてほしいなんか物騒すぎる。
「渋谷君、ここは私が説明するアルから、厨房に戻って調理の続きお願いするアル。新しいオーダーがきたアルよ」
「わかりましただぜ」
渋谷さんはそういうとすぐに厨房に戻っていく。
何で調理スタッフなのにウェイターがやりそうな出前をやらなければならないんだろう?
ここって人材不足なのか?
でも挨拶しないで黙々と作業しているスタッフがいる。
なんか嫌な空気だな。
新人が入ったんだから忙しくても挨拶くらいしろよな。
それにしても調理はせずに出前か。
もしかしたら調理スタッフも出前が出たらウェイターになるとかそんな店なんだろうか?
最近の料理店って従業員が少ないってニュースがネットで流れてたしな。
そこのところどうなんだろう?
俺は佐波山店長に出前の理由を聞くことにした。
「あの…何で調理スタッフの俺が出前をしなきゃいけないんですか?」
佐波山店長が近づく、持っている中華包丁も近づくので刺されるんじゃないかっとビビった。
「なぜ出前をさせられるか聞きたいアルか?」
佐波山店長、頼むから中華包丁を台に置いてくれ。
聞いたら刺されないかな?
いくらなんでもそれはないな。佐波山店長が天然なだけだろう。そう信じよう。
俺は言われた質問に質問で返すことにした。
「何でですか?」
「質問を質問で返すのはマナー違反アルね」
「すいません、つい…でも親父から調理スタッフになるように紹介されたもので、この出前だけはどうしてなのか気になりました。厨房で料理をするものだとばかり考えていたので…」
「それには理由があるアルよ」
佐波山店長は中華包丁を持っていた腕を上げた。
殺られる!
冗談でそんなことを思っていた。
佐波山店長は言葉を続ける。
「中華料理店の基本は何だと思うアルか?」
佐波山店長は俺にまた質問を投げかけた。
中華料理店の基本だって?
そんなもの考えるまでもないだろう。
すばり味だ、それにつきるぜ。
俺はその質問に素直に答える。
「えっ、そりゃあ中華料理が旨いってことじゃないですか?」
「違うアル」
違うってそりゃなんで?
中華料理が旨いから中華料理店に客は来るだろう?
それの何が違うんだろう。
「それじゃあ、中華料理店の基本は何ですか?」
中華料理の基本って味じゃないのか?
というか中華料理以外の料理も味で決まるでしょ。
この前俺が調理したステーキもそうだし、やっぱり味だろう。
俺は我慢が出来ないのでその答えを聞きたがった。
味が不味ければ客なんて2度と来ないだろう。
何言ってるんだ佐波山店長は。
「それは接客アル」
「えっ?」
接客だって?
「どんなに旨い料理でも店員の態度が悪ければ客は来ないアル」
「それは確かにそうかもしれないですけど」
接客ねぇ、やっぱお客様の信頼が~とか言ってヘコヘコ頭下げて金目的で商売するのが大人の仕事ってやつかね。
それが嫌なんだよな、なんか俺が苦学生っぽくてさ。
それに俺の出前がどう関係あるんだ?
だいたい俺は調理スタッフに採用されたんだぞ。
あの自分で調理した料理で佐波山店長に合格って言われたしな。
俺が疑問を持ったまま立ちすくんでいると佐波山店長は続きを話した。
「それはウェイターだけでなく厨房スタッフにも同じアル。私の店では入りたての新人は必ず1回は接客をやらせるアル。それが料理を作る前にお客様の信頼を作ることに繋がって、お客様のために調理出来る調理スタッフに変わることに繋がるアル。だから接客としてまずは出前を1回だけすることになっているアルよ」
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