第107話 座敷荒し 其ノ弐

 問題は次の日であった。


「な……なんだこれは!?」


 起きた瞬間、私は思わず叫んでしまった。部屋中……まるで泥棒に入られたように足の文場もないほどに散らかっているのである。


 それは紙くずだったり、ガラクタだったり……とにかく、どこから我が家に入り込んだのか全く検討もつかないものばかりだった。


「う~ん……ふわぁ。どうしたの、旦那……って、うわぁ!? なにこれ!?」


 佳乃も同様に驚いた。


「……つまり、君の仕業ではないわけだ」


「え……そ、そりゃあそうでしょ。といっても……旦那……がこんなことするわけないよね?」


 そう言い合って私と佳乃は顔を見合わせる。そして、同時に……昨日我が店にやってきた不思議な子供の方を見る。


 子供は相変わらず部屋の隅で座り込んでいるだけである。


「この子……? でも、こんなことをするようには……」


「……とにかく、盗られたものなどがないか確認しよう。話はそれからだ」


 私と佳乃は部屋をとりあえず掃除することにした。部屋の中は荒れ放題だったので、掃除が完了する前で数時間かかってしまった。


「……はぁ。疲れた」


 佳乃は整理された部屋で大の字になって寝転がる。私は今一度子供の方を見る。


「……君がやったのか?」


 私が躊躇いなくそう聞いてみると、子供は頷くでも否定するでも、ただ、私の事を見ていた。


「旦那……その子じゃないって。それに、盗られたものなんかもなかったし、いいんじゃない?」


「……そうかなぁ。まぁ、君がそう言うのなら」


 私はどうにも納得できなかったが、佳乃に言われるままにその場はそれで収めておくことにした。


 しかし……問題は翌朝も起こってしまった。


「え……なんで?」


 佳乃は少し困惑気味にそう言った。私自身も信じられなかった。部屋の中が……昨日掃除したはずの部屋がまたしても元通りに汚くなっていたのである。


「……旦那。これって……」


 流石に不安になったのか、佳乃が私のことを見てくる。


 私もいい加減理解していた。この原因は……ただ一つである。どう考えても最近我が家にやってきた訪問者しか考えられない。


「そうだなぁ……にわかには信じられないが、やはりあの子は、妖怪とかそういう類の存在なのだろう」


「妖怪……部屋を汚くする妖怪?」


「まぁ、信じられない話だが……そうなのだろう。おそらくあの子がいる限り、この部屋は何度掃除してもこのように汚くなってしまうだろう」


「えぇ……じゃあ、どうするの? 可愛そうだけど……出てってもらう?」


 佳乃がそう言うと、私は首を横にふり、そのまま子供の方に近寄っていく。


 子供は警戒することなく、私の方を見る。


「……なぁ。君。その……君はこういう状態の部屋が好きなのではないか?」


 私がそう言うと、子供は小さく頷いた。


「そうか……申し訳ないのだが、我々は客商売でね。さすがに部屋が汚すぎると困ってしまうのだよ」


 私がそういうと子供は少し悲しそうな顔をする。


「だが、出て行け、と言っているのではないんだ。君に、実はお勧めの場所があるんだ」


 そういって、私は微笑む。子供は少し不思議そうな顔をしていたが、私は子供に手を差し伸ばす。


「今からそこまで案内する。着いてきてくれるか?」


 子供は最初戸惑っていたが、小さく頷いた。私の手をとったのだった。

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