第103話 不死者の聖石 其ノ捌

「しかし……本当に大丈夫なのか?」


 私は思わずもう一度訊ねてしまった。しかし、新谷は自信満々に微笑んでいる。


「ああ。これしかないだろう?」


「……まぁ、そうかもしれないが」


「……ふふっ。こうしていると、大学時代を思い出すな」


 嬉しそうにそういう新谷。本気で楽しんでいるようだった。


「では! 皆さん、今一度皆様に奇跡の御業をお見せします!」


 そういって、舞台上で高らかに宣言するのは……平野月信だ。


 部屋を抜け出し、私と新谷は今……ホテルの宴会場の舞台袖に隠れている。


 新谷の話では、平野の洗脳は一定時間で切れてしまうものらしい。よって、平野は一定ごとに自身を殺さないといけないのである。


 それを信者たちの前で見せるのが、ホテルの元宴会場の舞台の上、というわけだ。


 客席には佳乃、そして、伊勢崎や瀬葉も座って、舞台を見ている。


 そして、私と新谷は今、舞台袖で待機しているというわけである。


「……しかし、いつ出ていけばいいんだ?」


「ああ。それは、もうすぐ弥生ちゃんが……そろそろだ」


 新谷がそういったその時だった。突然、舞台の上に弥生さんが登ってきた。


「さぁ! 今宵も復活の儀式を行います! 儀式に参加できる光栄な人間は前へ!」


 弥生さんが高らかに宣言する。新谷は私の方を見た。


「行くぞ」


 言われるままに、私と新谷はそのまま舞台袖から飛び出した。


「なっ……貴様ら、なぜ……!?」


 新谷が目を丸くする。客席もざわついている。


「平野。弥生はこっちの味方だ。残念だったな」


 新谷は遠慮することなくそういう。平野は怒りの形相で私達を見たが、すぐにニヤリと微笑む。


「ふっ……まぁ、いいわ。その古道具屋とお前だけで何ができるんだ?」


 平野がそう言うと信者たちが私達の前に集まってきた。しかし、新谷は慌てる様子はなかった。


「何ができる、か……実はな、こっちにもあるんだよ」


「あ? 何が?」


 そういって、新谷は懐から何かを取り出した。それは……紅い宝石だった。


「なっ……それは……!」


 まぎれもなくその宝石は、平野が首から下げているものと同じものだった。


 どう見ても同じように見えるものだった。


「そうだ……お前だけじゃない。今は、コイツも不死の力を持っているんだぜ?」


 新谷はそう自信満々にそう言って、私に宝石を手渡す。


「……な、なるほど。しかし……だから、どうしたというのだ。それあるといっても所詮お前は……」


「お前ら! 聞いただろ! コイツの不死の能力はコイツの力じゃない! この宝石があれば誰でも手に入れられるものなんだ!」


 新谷は声高らかにそう言った。客席の信者たちはざわつき出す。


「はっ……な、何をいうかと思えば……そんなのことは信者共には教えていない……誰も信じないに決まって……」


「そうか? それなら、実際に見てみるんだな」


 そういって、新谷は懐から拳銃を取り出したかと思うと、そのまま何のためらいもなく、私に向かって、銃口を向け……そのまま引き金を引いた。


 鈍い衝撃が私の胸全体に広がる。私は、そのまま床に倒れ込んだ。


「……旦那……? 旦那ぁー!」


 少ししてから、遠くの方から、佳乃の悲痛な叫びが聞こえてきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る