第101話 不死者の聖石 其ノ陸
私は暫くの間何も喋れなかった。ただ、暗闇の中で不敵に微笑む親友の姿を見ていることしかできなかった。
「……なぜ、君がここに?」
ようやく出てきたのはそんな問いかけだった。新谷はフッと小さく微笑む。
「言っただろう? 俺は平野の宝石に興味があった。だから、アイツに近づいた……お前の店にもこのホテルから行っていたんだぜ?」
「そ、そうか……で、ではなくて! そ、その……如月さんは……」
私は次の言葉を言えなかった。しかし、新谷は別に意に介していないようだった。
「ああ、死んだよ。お前も……薄々気づいていたんじゃないか? 俺の言動で」
何ということはなかったかのように、新谷は俺にそう言った。俺は何も言えずにただ、新谷のことを見ていた。
「……そうか。その……なんといえばいいか……」
「いや、別にいいさ。俺は如月の死を認めていないからな」
さらっと、新谷はそんな事を言った。私は思わず新谷のことを見てしまう。
「え……認めていない、って……」
「そのままの意味だ。俺は元国健部隊の立場を利用して、国健部隊が保管していた異常な物品をくすねてきた。後は……帝財局からもいくつか頂戴してきたな」
「なっ……帝財局から?」
驚く私をよそに、新谷は先を続ける。
「ああ。戦後の混乱の中では簡単に帝財局に潜入することができたよ。で、ここまでいえばわかると思うのだが……お前に売りつけたのは、どれも役に立たなかった物品だよ」
「役に立たなかった……というのは?」
私がそう訊ねると、新谷は俺のことを真っ直ぐに見る。完全にやつれてはいるが、その視線だけは狂気的にギラついていた。
「如月を甦らせることに決まっているだろう」
新谷はゆっくりとそう言った。その瞬間、私は思い返す。
新谷が私の店に持ってきたもの……それがすべて死者との交流を目的にしたものであったことを。
「……本気で、言っているのか?」
私は鉄格子越しに思わず聞いてしまった。新谷はためらうことなく、小さく頷いた。
「ああ。だから、こんなところでいつまでも捕まっているわけにはいかない。俺は平野からあの宝石を奪い取る。あれは……如月のために必要なものだ」
「だ、だが、新谷……この状況ではそもそも私達は……」
その時だった。暗い地下室に光が差し込む。そして、誰かがこちらへ近づいてくるのがわかった。
「……誰かが来るぞ」
「ああ。そろそろだと思っていた」
そして、足音は私と新谷の鉄格子のすぐ近くで止まった。
「新谷さん。迎えにきましたよ」
「え……その声は……」
私は驚いてしまった。そして、思わずその声の主……黒い喪服のような服装の女性のことを見てしまう。
「ああ……お久しぶりです。古島さん」
まるで生気のない表情でそう言ったのは……如月さんの妹さんの弥生さんだった。
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