第83話 護国ノ乙女 其ノ弐

「……で、アレ。どこで見つけたの?」


 次の日、藪医院に私は女の子を運び込んだ。藪先生は怪訝そうな顔でそう訊ねる。


 女の子は眠ったままだったが、先生は一通り女の子を検査したようだった。


「アレって……その……行き倒れでね。昨日、見つけたんだ」


 私がそう言うと先生は怪訝そうな顔で私を見る。


「……行き倒れねぇ。旦那。一つ聞いてもいいかな?」


「あ、ああ。なんだ?」


「俺も軍医だったから、いろんな人間を見てきたんだけど……普通、人間って、間接の部分に丸い球体の部分なんてないよなぁ?」


 藪先生は意味のわからないそんな事を言ってくる。私は困ってしまって何も言えなかった。


「……先生の言っている意味が、わからないんだが?」


「そのままの意味だ。人間の間接には丸い球体なんてないよなぁ、って聞いているんだ」


「あ、ああ……え?」


 すると、先生は立ち上がった。そして、眠ったままの女の子の方に近づいていく。


 そして、女の子の白装束の袖を捲った。先生の言う通り、確かに女の子の肘の部分には人間にはあるはずのない丸い球体があった。


「……これは?」


「さぁ? 俺は見たこと無い。この身体、肉じゃなくて……なんだか木製みたいなんだよな。簡単に言えば、この子の身体は人間のものじゃないってことだ。どちらかというとコイツは……人形に近い存在だ」


「え……じゃあ、なんでこの子動いているんだ?」


 私がそう言うと先生は苦々しい顔をする。


「……今俺が言った言葉の意味、わかる? どちらかというと、人形に近い、って意味」


「……いや。わからない」


 先生はそう言うと、女の子の顔の方を指差す。


「……恐ろしい話だが、この子。頭部だけは本物……人間のものだ」


「え……は? せ、先生、それって……」


 私が驚愕していると、藪先生は更に苦々しい顔をして私を見る。


「……だから言ったでしょ。どちらかというと、って」


「それじゃ……この子は身体が人形で、頭は人間って……なんで、そんな……」


 私が混乱していると、藪先生は鋭い瞳で私を見る。


「……旦那。こういっちゃなんだが……こういう存在を拾ってきちゃダメだと俺は思うぜ」


「え……し、しかしだな……」


 私がそう言うと、藪先生は今一度女の子の方を見る。


「俺にはコイツが動いていたっていう旦那の言葉が信用できない。簡単に言えばコイツは人間の頭部に、人形の首から下の身体をくっつけただけの存在……医者の俺から見れば、遺体だよ。そんな恐ろしい存在が歩くってのは、それこそ悪い冗談で――」


 そこまで言ってから、藪先生は言葉を失った。そして、唖然として女の方を見ている。


 私も見た。見ると、女の子は起き上がって、私を見ていた。


「おはようございます。ここはどこですか」


 そして、紛れもなくはっきりと無機質にそう喋ったのだった。

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