残暑を見た

広末夏旗

残暑を見た

九月一日、長いとも短いとも言える夏休みは終わり二学期が始まった。暦の上では立秋後、テレビなんかでは九月に入るとよく聞く残暑。一般的には夏は終わり秋がやってくるどっちつかずの間の言える期間。例えるなら中学の卒業式が終わって高校の入学式までのふわふわしたつかみどころのない時間だ。世間では残暑残暑って言うけれど、僕が定める夏はまだ終わってない。だってほら、体育館の中にいても蝉の声はうるさく聞こえてくる。蝉の鳴き声は夏の代名詞のひとつだ。それが聞こえなくなった時、夏が終わるんだと思う。

儀礼的は始業式が終わって家に帰る通学路、真っ赤な自動販売機の前に一匹のセミが死んでいる。蝉は土の中でおよそ七年間蓄えたエネルギーをたったの一週間で放出できたのだろうか?なんとなくだけど、できない気がする。セミは動かないけれどその体にはまだ夏の暑さが残っている、そんな気がした。蝉はひっきりなしに鳴いている、セミの中に暑さは残っている。残暑は夏の延長線上にあるんじゃなくて共存しているんだ、と思った。

何気なく手を伸ばすと、セミは大きく一度羽をふるわせた。

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残暑を見た 広末夏旗 @Kaki_Hirosue

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