2017年6月1日ーーパリパリ、とろーりチーズたっぷり
ちょっと困ったことに。
「わたくし達は除け者だなんて、ずるいですわお兄様達!」
「リュシアに同意ね」
ただいま僕がお借りしてるゲストルームにて美女にサンドイッチされてます。
クラウは相変わらずきゃっきゃしながら僕の腕の中。
「晩酌はいいけど、カティの美味しいおつまみやカクテルを独占してたなんて!」
先日のカクテル騒動。
ファルミアさんとアナさんは寝ていらっしゃったから当然参加してなくて、ユティリウスさんの拗ね拗ねぷんぷん具合な時に聞いたからこちらまで同じようになっちゃったんだよね。
んで、詳細を引き出すのにこうやって僕の部屋に押しかけてきてるのですよ。アナさんは今日はお仕事が早く終わったからと早い時間にいるのです。
「ところでカクテルとはどのようなお酒ですの?」
ユティリウスさんから美味しいお酒とおつまみとかしか聞いてないからか、カクテルの詳細はアナさん聞いてない模様。
「蒸留酒や酒精の強過ぎる酒を水や湯で割ることがあるでしょう? あれを他の果実酒やジュースなんかで割って飲むものと思えばいいわ」
「まあ、美味しそうですわ!」
「カティ、この前は何で作ったの?」
「えっと……オルジェとシトロムとレイクをエディオスさんが絞ってくださったのでそれと蒸留酒を」
「無難なとこね。けど、カティはゼルが注意したようにあんまり飲まない方がいいわ。万が一があってからじゃ遅いもの」
「うぅ……」
それは再三言い渡されてるので僕も頷くしかないことだ。
クラウは酔っても後に残らないのが不思議。
もう飲ませないけどね!
「でも、ノンアルだったら一緒に飲めるし。今晩は私達だけで晩酌よ! 女子会ね!」
「ジョシカイ?ですの?」
「女だけで食事や晩酌なんかをすることと思ってちょうだいな? 場所はここの方がいいわね。食堂じゃ、リースやエディとかフィーに見つかったらたかられるもの」
「まあ、素敵ですわ!」
僕の意見総無視でどんどん決まってくよ。
けどまあ、僕も嫌じゃないから口を挟まなかったんだけどね?
(今日は何作ろうかなぁ?)
女子会が決まってからはお二人とも皆さんに悟られないようにごく普通に過ごされてたけど。
さすがは王族?だからかな?
僕もポーカーフェイス頑張ってみたけど難しいから極力メニュー考えてにやけないようにしたんだよね。
「さて、皆も寝静まったしマリウスには材料の許可をもらったから三人で手分けするわよ!」
「はい!」
「お任せくださいな!」
「ふゅ!」
お風呂上がってからこっそりと厨房に集合。
クラウは部屋で待ってるよりも連れてった方がいいからと同行させたのだ。
「んー、せっかくだから女子会らしいおつまみがいいわね」
「この前はチヂミに唐揚げやポテトと鳥皮のペペロンチーノでした」
「何その美味しいラインナップ! でも、にんにく……オラドネは臭いがきついからダメね」
アナさんもニンニクの話が出るとこくこくと頷いた。
洗浄の魔法で口臭は取れなくはないらしいけど、強過ぎると却って抜けにくくなるんだってさ。
完璧除去は当然フィーさんしか出来ないから、今回ペペロンチーノと唐揚げはやめておくことになった。
「リュシアにはカティがエディに頼んでたのと同じ作業が無難ね。王族が料理するのはほとんどないもの」
「殿方は野営がお得意でも、ほとんどの女は無理ですものね」
と言うことで、アナさんにはジュース制作をお願いすることに。
刃物の扱いも危ないようだから僕とファルミアさんが半分にカットしてあげたよ。
「この半分に切ったのを、この尖ってるとこに押し付けてひねりながらぐるってしていくと果汁が下の受け皿に溜まっていくんです」
「あふれそうになりましたら、この水差しに入れれば良いのですね?」
「はい。種は先に捨てた方がいいのでお願いしますね」
「わかりましたわ」
慣れない作業だろうから、手が疲れたら休み休みした方がいいとアドバイスして、僕とファルミアさんはフライドポテトとポテチの下ごしらえをしながらメインになるおつまみを考えた。
「食パンは余ったら下の階層に持ってっちゃうらしいからバケットくらいしかないのよね」
「ピザパンはお腹に溜まっちゃいませんか?」
「それもそうね。生野菜とディップとかもいいけど、他にーー」
うーんと二人で首を捻っていたら、ふいに頭の上から重みがなくなった。
「クラウ?」
「ふゅゆ!」
すいーっと何故か飛んで行っちゃって、僕が呼んでも戻らずに貯蔵庫に向かっていく。
どうしたんだろって僕とファルミアさんは顔を合わせてから追いかけていけば、クラウはチーズの貯蔵庫の扉前で浮いてた。
「ふゅ、ふゅぅ!」
「カッツが食べたいの?」
「ふゅ!」
けど、ここのチーズはシュレッドしてもそのままじゃ食べにくい。
セミハードとかハード系がほとんどだから、熱を加えて他の食材と合わせた方が美味しいタイプだ。
なら、クリームチーズ作って色々ディップでも作ろうかな?
「カッツ……チーズ……そうね、あれが出来るわ! クラウ、ナイスアイデアよ!」
「ほえ?」
「ふゅ?」
ファルミアさんが何か思いついたようで、クラウを片手で抱っこしたら扉を開けて貯蔵庫に入ってっちゃった。
そしてすぐにクラウくらいの大きさの丸いチーズの塊も抱えて戻ってこられた。
「そのカッツどうするんですか?」
「ふふ、百聞は一見にしかず。見ていてちょうだいな?」
「はぁ」
とりあえずそう言われたからには見ておくしかない。
クラウを僕に渡して、ファルミアさんはカッティングナイフでチーズを半分にカットして、片方はそのままにしてもう片方は適量にシュレッドしていく。
「このシュレッドしたチーズひとつかみをライドオイル少しを垂らして熱したフライパンにそのまま入れて」
あ、僕わかったかもしれないや。
僕はクラウを頭に乗せながら待っていれば、ジューってフライパンの中で溶けていくチーズの音が聞こえてきた。
「完全に溶けて縁がパリパリしてきたらひっくり返して適度に焼くの」
ちょうどひっくり返すタイミングだったようで、フライ返しでひょいっと薄い衣のようになったチーズがフライパンの表面に触れるとまたジュージュー言う。
音が聞こえにくくなったらお皿に乗せて、素早く冷却の魔法をかけられた。
「これに黒胡椒をかけて、適度な大きさにすればチーズせんべいの完成よ」
「うわぁ!」
「まあ、何やら香ばしい匂いがしますわね?」
「楽しみにしててちょうだいな。リュシア、どこまで出来たかしら?」
「まだ半分ほどですわ」
「じゃあ、僕はポテト揚げてきまーす」
「私はチーズせんべいをもうちょっと作るわ」
そこからは分担作業が続く。
僕はポテトを揚げて、それが出来たらこの前と同じジャガイモチヂミのタネを作って焼いていく。
ファルミアさんはチーズせんべいをたくさん作ってたけど、途中でディップ用かと思いきや茹で野菜を色々作っていた。残ってたチーズの塊はそのまま。
何をやろうとしてるかなと思って、一瞬チーズフォンデュかと思ったけど野菜の大きさが一口大じゃないから違うみたい。
「これはカティの部屋に行ってからお披露目するのよ」
と言って内緒にされてしまった。
◆◇◆
全部が用意出来れば、台車を使って僕の部屋に運んでいく。
途中は他の誰とも出会わなかったのにちょっぴほっとしたよ。別に悪いことをしてるんじゃないけどね?
「卓などはお任せくださいな」
全員が僕の部屋に入ったら、アナさんが手を軽く振って少し大きめのテーブルと三人分の椅子を用意してくれました。
僕とファルミアさんがおつまみを乗せていき、アナさんはジュースピッチャーとお酒にグラスを乗せてくれる。クラウは相変わらず僕の頭の上。
しからば、
「カクテル作っていきますね」
「私オルジェがいいわ」
「わたくしはどちらでも構いませんわ」
「はーい」
アナさんが指定しなかったので、カシスのような果実酒少しにグレープフルーツジュースを混ぜました。ファルミアさんのもベースは同じにしてジュースはオレンジジュース。
僕とクラウはさくらんぼのジュースをベースにしてノンアルカクテルっぽく。飾り付けのフルーツも忘れない。
出来上がって差し出せば、女性二人はぱぁって顔を綻ばせた。
「可愛いわ!」
「美しいですわ! なんだか特別なお酒に見えます!」
「ふゅ、ふゅぅ!」
クラウもお酒じゃないけど自分の飲み物があるのに喜んでくれた。器はお椀だけどね。
「では、初の女子会を祝して乾杯!」
「「かんぱーい!」」
「ふゅ?」
一名?一匹?は性別ないけど、お風呂も一緒に入るから今更だしいいよね?
グラスをチンと合わせてからクラウの器にもちょっと合わせてあげた。
「ジュースだからいくらでも飲んでいいよー?」
「ふゅ!」
と許可を出せば、クラウは迷うことなくノンアルカクテルをぐびぐび飲んでいった。
「ジュースの酸味が強いですが、この果実酒があることでまろやかな感じがいたします」
「前世ではしょっちゅう飲んでたのに、転生してからは水割りやお湯割りばかりだったから忘れてたわ。カシオレみたいねこの味」
「カシオレ?ですか?」
「カシスって言う木の実で出来た果実酒があるのよ。それをオルジェのジュースで割ったりするの。カシスオレンジって言うのがちゃんとした呼び名ね。リュシアのはカシスグレープフルーツってとこかしら」
そして、おつまみ。
僕は迷うことなくチーズせんべいに手を伸ばし、クラウにも分けてあげて口に入れれば、チーズの濃厚さに黒胡椒がぴりりと効いてパリパリとした食感に舌鼓を打つ。
「チーズせんべい美味しいです!」
「ふゅ!」
「まあ、この薄い生地みたいなのはなんですの?」
「カッツを焼いて、胡椒をふったものなの。おつまみに最高よ?」
「では………………まあ! パリパリしていて楽しいですし、胡椒の辛味がちょうど良いですわ」
「簡単なのに、やみつきになりますよね」
なので、ポテトよりも全員チーズせんべいを先に空っぽにしちゃったよ。
ポテトは安定の塩加減にホクホクの食感にアナさんも喜んでくださったけど、問題の半分にしたまま持ってきたチーズの塊と蒸し野菜が気になっていた。
あれをどう合わせるのだろうか?
シーザーサラダ的な?
「さて、カティにはこのカッツの塊を持っていてくれるかしら?」
「はーい」
カクテルの一杯目を終えてからファルミアさんが立ち上がった。
抱えてってことは、やっぱり目の前で削るってパフォーマンス込みでやるのかと思ってたんだけど。
「何故火の玉を出すんですか?」
「切り口だけ溶かすからよ?」
僕とファルミアさんの考えてたのは噛み合っていてなくて、ファルミアさんはスパベラのようなナイフ片手にもう片手では僕が驚いたように火の玉を出していた。
けれど、溶かしてってもしや?
「この表面を炙りながら溶かして、ぶくぶく言ったらナイフで削って」
言いながら作業されていくとこんがりとしたチーズのいい匂い。
ナイフでこそぐようにしていき、一人分に盛り付けた茹で野菜の上にとろんとそのチーズを乗せていった。
「まあ、カッツをそのように乗せますの?」
「これが結構美味しいのよ。リュシア、食べてみて」
「はい」
受け取ったアナさんは早速フォークを持って、茹で野菜と溶けたチーズを絡めたのを口に運んだ。
すると、ぴこんって肩が跳ねたよ。
「まあまあ! 少し焦げたカッツの風味と溶けたカッツがお野菜に絡んだのがなんとも言えませんわ!」
「すぐにカッツが固まってしまうのが欠点だけれど。カティ、もう少しで出来上がるわ」
「はい」
アナさんひょいぱくひょいぱくって積極的に食べていってるよ。よっぽど気に入ったみたい。
僕はラクレットなんてテレビで見るのはあっても、実際に食べるのは初めてだからわくわくしちゃってた。
残りの分を乗せれば、僕達も固まる前に急いで食べたよ。
「ふわぁ、ラクレット美味しいです!」
「初めて挑戦してみたけど、このカッツでもいいわね」
「ふゅふゅぅ!」
クラウには素手じゃ食べれないから僕がひと口ずつアーンってしてあげたよ。
それから女子会はカクテルを作りラクレットを作りで材料がなくなるまで繰り返したからお腹いっぱいになった。
チヂミも大好評だったよ?
しっかし、満腹満腹!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます