2016年9月30日ーー秋と言ったら味覚狩り、 クルミの出番だよ!part3

 さて、ここから焼くのに30分以上ははどうしてもかかるからとお片づけしてから食堂でティータイム。

 お茶請けは残しておいたローストしてあるクルミと余ったタルト生地を魔術で焼いたパイスティックのようなもの。これだけでも十分に美味しゅうございます。


「焼き立てタルトが食べられるんですよねー?」

「あら、それは無理よ。中のフィリングがどろって出てくるもの。それに、本当は1日おかなきゃいけないのを今日は魔術で冷却させるしね」

「ありゃ……」


 そうか、じゃあ熱々サクサクのタルトは今あるスティックだけなのか。

 ところで、クラウさんや。君いくつ目食べたの?

 そろっと僕のお皿に手を伸ばさないでほしいな?


「クラウ、だーめ」

「ふゅ……」


 僕が窘めるとクラウはしょんぼりとお耳を畳んだ。

 くっ……しょげて可愛さをアピールしたからってダメだからね!


「ふふ、いいコンビね?」

「そうですか?」

「ふゅ?」


 クラウが生まれてまだそんなに経ってないけども、僕らはいい主従関係を築けているようです。


「ええ、神獣を窘めると言うのはなかなか出来るものではないわ。フィーでも、他の神獣達を言い聞かせるのは多少苦労したって聞いたことがあるの」

「あのフィーさんがですか?」


 想像つかないや。


「僕がなぁに?」


 いきなりにょきっとファルミアさんの背後からフィーさんが飛び出てきた!

 もう、驚かせたがり屋だなぁ!

 紅茶危うく噴くとこだったよ。


「あら、フィー。来てたの?」


 かく言うファルミアさんは至って普通で特に驚かれていないようだ。慣れてるのかな……?


「うん。カティア探しに行ったけど部屋にいなかったからここかと思ってさ。ミーアが一緒だとは思わなかったけどね」

「僕ですか?」


 なんだろうと首を傾げた。


「おやつ一緒に作ろうと思ってね? でも、ミーアがここにいるってことはもう作ってる最中だった?」

「正解よ。今焼きに入れてるところなの」

「あ、そうなんだ?」


 やったね、とフィーさんは指パッチンされました。


「ミーアとカティアの合作だとなお美味しいんだろうなぁ」

「ええ、山までジャグラン採りに行ったとこから共同作業してたもの」

「山までジャグラン採りにって、ミーア相変わらず行動派だねぇ」

「あははは……」


 あるばなんとかの蛇もどきと遭遇したことは言わないでおこう。

 ファルミアさんも言わないでくれてるし。


「さて、もうそろそろ焼ける頃ね」

「あ、じゃあ僕が皆呼んでこようか?」

「あら、創生神に小間使いなことをさせてよろしくて?」

「することないからいいよー?」

「じゃあ、お言葉に甘えるわ。あ、私の部屋は強化結界と四凶しきょう達を眠らせてあるから、無理矢理起こしてきて大丈夫よ?」

「わかったー!」


 と言って、フィーさんは食堂から出て行かれた。

 ファルミアさん、さりげなく四凶さん達のことボカスカしていいって言ってたけど、いいのかね?

 まあ、僕には止められない。

 四凶の皆さんどうかご無事で。








 ◆◇◆








「うーん……いい具合ね。カティ、濡れ布巾はもういい?」

「大丈夫ですよー」


 いつでも大丈夫な状態にスタンバッておりまする。

 そうしたら、ファルミアさんがミトンで1台ずつ竃のオーブンから焼き上がったエンガディナーを取り出して布巾の上に置かれます。


「綺麗な茶色ですねー?」

「うん。模様も崩れていないし上出来ね」


 熱々を食べたいけども、これは冷却しないと食べれないようなのでお預けだ。

 まずは粗熱が取れるようにゆっくりと冷却魔術を施していく。


「粗熱が取れたら型を外してっと」


 ペティナイフを型と生地の間に差し込んでぐるっと一周。

 そうすれば、ぱかっと型が取れますた。


「上々。……クラウ、つまみ食いはいけなくてよ?」

「ふゅ……」


 そろーっとちみっちゃい手を伸ばしていたクラウにファルミアさんが麗しい笑顔で窘められた。

 おおう、絵面がまばゆくて暴力的過ぎまふ。

 だけど、じっとしてるわけにはいかないので僕は外れた型を持ってシンクに洗いに行きます。

 戻ってきたら、クラウがファルミアさんの頭の上に乗っていて、ファルミアさんは慎重に冷却魔術を施している最中でした。


「く、クラウ⁉︎ ファルミアさんの邪魔しちゃダメだよ!」

「あら、軽過ぎて乗ってるのがわからないくらいよ? 気にしなくていいわ」

「すみません……」


 だけども、集中されてるとこにはいけないと思うので、クラウをファルミアさんの頭から降ろして抱っこします。


「ふゅぅ?」

「いい子にしてなきゃおやつなしだよ?」

「ふ、ふゅぅ⁉︎」


 それは嫌だーって感じにクラウはびくりと体を震わせて、すぐに風船がしぼんだようにくったりとなってしまった。

 食欲に忠実すぎるよクラウさんや。


「んー……よし、こんなところかしら?」


 冷却が完了したエンガディナーは焼き立てよりはしっとりした感じにしか見えない。

 中のフィリングはどう固まったのだろうか。


「そろそろ皆も来てる頃ね。マリウス、お茶の仕度はそちらに任せるわ」

「かしこまりました」


 マリウスさんが一礼して、給仕長のお兄さんの元へ行ってしまわれた。ライガーさんも続こうとしたが、


「ライガー、そちらにはこれを渡しておくわ。皆で分けて召し上がりなさいな」

「ありがとうございます。皆も喜びますよ」


 と、ファルミアさんがライガーさんに渡したエンガディナーは……ファルミアさんが作られた方でした。

 えぇっ、じゃあ僕達が食べるのって僕が作った方⁉︎


「え、ファルミアさんそっちって」

「当たり前でしょう? せっかくカティが作ったのを私達が食べれないなんて嫌だわ」

「で、でも、僕今回が初めて作ったのに……」


 ファルミアさんのご指導の下作ったから不味くはないだろうけど、ちょびっとだけ残念だ。

 せめて半分こずつにしてほしかった!


「あら、カティは調理人じゃない。大丈夫よ、独学だけの私よりは手際良かったし」

「そう言う問題ではないと思いますが」

「細かいことは気にしないの。さ、クラウも待ちかねてるから食堂に行きましょう?」


 僕がまごまごしている間にも背中を押されてしまい、僕らは皆さんが待っているであろう食堂へと向かった。


「おう、来たか?」


 食堂へ行けば、皆さん勢揃いされてた。

 ユティリウスさんだけは、若干眠そうではあったけど。

 あと四凶しきょうの皆さんもうつらうつらしながらなんとか壁際に立っていらした。座らないのかな?


「ファルとカティアの共作っつーから、今日のはなんなんだ?」

「私が前にも作ったのをカティと一緒に作ったの。エンガディナーよ?」

「お、ミーアのタルト菓子かい!」


 ユティリウスさん覚醒。

 本当に奥さんのお手製料理が大好きなんですね。ライトグリーンみたいな瞳が一気にキラッキラッになられました。

 それは背後にいる四凶の皆さんも目を丸くされた。


「ファルミアの菓子……」

「我らを眠りにつかせたのは、ジャグランを採りに行くためだったか」

「邪魔立てはせぬと言うのに何故だ……」

「解せぬ……」

「そこ、うだうだ言ってるとあげなくてよ?」

『すまぬ』


 コントですか?

 しかも、言い含められただけなのにがくりと項垂れてしまわれた。

 守護妖さん達もファルミアさんのお菓子大好きなんですね。これはほとんど僕が制作したものだけれど。

 とりあえず、僕らが座らないとおやつタイムが始まらないのでファルミアさんはユティリウスさんのお隣に、僕は変わらずセヴィルさんのお隣の席に座りました。クラウは取り皿横に座らせましたよ。


「まあ、美しい模様ですわ!」


 アナさんは中央にエンガディナーが来ると、嬉々として上に描かれた模様を褒めてくれた。

 い、言いにくいなぁ。中身のフィリング以外は僕が作ったなんて。


「うふふ。今日はカティが作ったのよ。私は中のフィリングを作ったけれど」


 僕が躊躇ってたらファルミアさんが暴露っちゃいました。

 こ、心の準備と言うものがあったのに何でもう言っちゃうんですか!


「へぇ、中々の出来栄えでじゃない。けど、なんで今日はカティアに作らせたのミーア?」

「私も見本兼ねて作ったけど、そっちは調理場に渡したの。せっかくだから、今日はカティのが食べたいなぁって」


 と言いつつも、ファルミアさんは視線をセヴィルさんに向けていた。

 当然セヴィルさんは気づいていて、目元を赤らめていた。僕はそれを現実逃避しながらも横目で見ていました。

 だって、恥ずかしいものは恥ずかしいんだい!


「と、とりあえず食べましょう!」


 ここは作った僕本人がと言うわけではなく、一番最年少として切り分けるのを率先して行うことにした。実際はクラウが一番年下だけど、卵の中で2千年も育ってたから別次元です。

 僕はお皿に用意しておいたペティナイフを手に取り、少し身を乗り出してエンガディナーのお皿の縁に手を添える。


「えーっと……全部で12当分すればいいですよね?」


 結構ちっちゃくなるけど、こんなにも人数がいるからしょうがない。

 と思ってたら、


「カティ、四凶しきょう達の分はなくてもいいわよ?」

『ファルミア何故だ!』

「だって、12もなんて分けたら1人当たりの取り分ものすごいちっちゃいじゃないの?」

「やめましょうよ。あとで喧嘩になるよりは……」


 既に臨戦態勢取りそうな勢いになられてるけれど、平和が一番なので僕は口を挟んだ。

 特に四凶しきょうさんの中でも饕餮とうてつさんが大の甘党らしいからこれ食べれなかったとしたら、この部屋の中で元の姿に戻りかねない。

 嫌です。妖怪絵図の如くのあの人面異形は。


「カティは優しいのね。と言うわけで、皆カティに感謝なさい?」

『感謝するカティア!』

「大袈裟過ぎますよ……」


 とにかく、ちっちゃくなるけど僕は人数分切り分けていく。

 まず全体に4分割。それを1ピースごとに3つずつ均等になるように切り分けたら出来上がり。

 中のフィリングは完璧に生キャラメル状になっていて、ヌガーのようにも見える。

 タルト生地の中にたっぷりとクルミ入りのキャラメルが入っていてよだれ出そう。

 は、冗談にしておいて、ミニトングを持ってエディオスさんとユティリウスさんの方から順番にお皿に乗せていくよ。


「久しぶりに食うなぁ?」

「ええ、しかも今日はカティアさんとファルミア様との合作。きっととても美味しゅうございますわ」

「ええ、わざわざ山に行ってジャグラン採りに行ったとこから頑張ったものね」

「「山に⁉︎」」

「あー、ずるいぞミーア。俺も行きたかったのに」

「リースはお昼寝してたじゃない」

「よし、檮杌とうこつさんの分でちょうど。お待たせしましたー」


 全員分を配り終えたところで、僕はちょうど来てた給仕のお姉さんに空のお皿とトングとペティナイフを渡したら自分の席に戻る。

 ここで、四凶しきょうさん達も席に着かれてくれました。

 お茶の準備も同時進行で給仕の皆さんが配ってくれたので、いつでも食べられます。


「んじゃ、食おうぜ」


 と、エディオスさんの音頭でいざ実食!




 サクッサクッ




 いい音が部屋に響き渡る。

 おお、焼き加減はファルミアさん監修の元だったけど、先にいただいたスティックより随分としっとりしてるなぁ。


「「ん、美味い!」」

「美味しいー!」


 男性陣が早くも賞賛の声を上げてくれました。

 セヴィルさんはとちらっと横目で見たら、もごもごと咀嚼しておられました。

 ファルミアさんが言った通り、本当にキャラメル食べれたんだ?

 でも、蜂蜜とか蜜飴とかダバって入っているのにどうして?


「ん? 美味いぞ?」


 と、口端を緩めたセヴィルさん。

 唐突な微笑に顔に血が昇るのを感じた。

 美形の微笑みは大変心臓に悪ぅございます!

 そして外野陣、生温い視線を送ってこないでください!

 四凶しきょうさん達はちまちまとゆっくり召し上がってられたけど、クラウは手で持ってエンガディナーにかじりついていました。

 獣’sは恋愛関連疎いのか興味ない感じなんですね。むしろ、そっちの方がありがたいです。

 え、えーっと、ここはもう質問しちゃぇぃ!


「えと……セヴィルさんはキャラメル大丈夫なんですか?」

「ああ、この菓子くらいでしか食べないがな。ジャグランの香ばしさで甘さを抑えられているからか食べやすい」

「残念ねーゼルぅ。そっちは私の手作りで」

「……何が言いたいファルミア」

「ふふ、さぁーてね?」


 ああ、また更に生温い視線からの圧力が。

 質問に失敗しちゃったようです。

 しかも、セヴィルさんも視線の意味に気づかれちゃって美麗なお顔の眉間に深い皺が!


「うむ、美味い……」

「ファルミアと変わらぬ腕前であるな?」

「量が少ないのはしょうがないが」

「もっと食べたい」


 四凶しきょうさん達マイペース過ぎる!

 賞賛のお言葉はありがたく受け取っておきますが。

 とここで、僕は自分のをまだ食べてないことを思い出し、クラウに盗られる前にとお皿を持ち上げてフォークで刺して口に運ぶ。

 サクサクの香ばしいタルト生地にはツヤ出しの珈琲の苦味もあって甘さが少し抑えられていた。

 中のフィリングはしっとり生キャラメルのミルク味で、これでもかとクルミが入っているからかこちらも甘さが思ったよりはない。

 とっても食べやすいのでございます!


「美味しいです!」

「このタルト生地は色々応用が利くから、普通のタルトケーキなんかにも使えるわよ?」

「だとしたら、プチカ(苺)たっぷりのタルトケーキとか作れますね‼︎」


 僕あれ好きよ?

 だけど、果物のツヤ出しなるナパージュって作れるかな? ゼラチンはあるから作れなくもないけど、僕そこまで追求したことないし?


「うんうん、いいわね。ツヤ出しのナパージュはマザランなしでも簡単に作れるし、明日はそんな感じで数種類タルトケーキ作りましょうか?」

「「「やった!」」」

「ふゅふゆぅ!」


 男性陣とクラウはガッツポーズされて、僕とセヴィルさんのことはもう頭の中にはないようだ。

 ん? タルトケーキって総じて甘すぎるぞ⁉︎

 ナパージュなんて砂糖液って言って過言じゃないし。

 ならば、


「甘さ控え目のリモニ(レモン)タルトも作りますね?」

「……ありがとう」


 セヴィルさんは甘過ぎるものは苦手でいらっしゃるから、酸っぱくて爽やかなレモンタルトを提案すると軽く首を縦に振ってくれた。

 本当は抹茶クリームとか餡子を使った和タルトを作りたいとこだったけど、この世界に抹茶あるかまだわかんないしね。

 ただ、


「ジャグランもうちょっと残しておけば、あしらいに使えたのになぁ」


 タルト縁に乗せるナッツ砕いたのとかああ言うのがあれば、セヴィルさんも普通のタルトケーキ食べやすいと思うんだけどなぁ。

 と言う声は全員に届いてたようで。


「じゃあ、明日の昼一にジャグラン採りに行こうか?」


 言い出したのはユティリウスさん。

 そう言えば行きたがっていらしたね。


「ずりぃぞユティ。俺も行くぞ」

「エディは俺と違って公務あるんだからダメでしょ? ゼルが行かせるわけないじゃないか」

「当然だ」

「カティアのケーキの為だろ? いいじゃねぇかよゼル」

「ダメだ」

「わたくしもお止めしますわ。公務は山の様にありますからお早いこと采配してくださらなければ」


 わいわいぎゃいぎゃいと行く行かせないと口論し合い、結果はユティリウスさんと四凶しきょうさん達が加わったメンバーで明日の午後一に行くことになりました。

 んでもって、今度は蛇もどきには遭遇しなかったよ。

 と言うのも、四凶しきょうさん達守護妖のオーラ的なのが、大抵の魔獣なんかを寄せ付けないからだって。

 じゃあなんで前日連れて来なかった訳はすぐにわかりました。

 クルミ以外の山の幸をこれでもかと採りまくられたからです。

 山の恵みが根こそぎ採られたんじゃないかなぁ。

 大丈夫かと不安になったが、全部夕飯でご馳走になりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る